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犯人は誰だ!? 橘SIDE
(橘SIDE)
最近、雪哉の様子がおかしい事には随分前から気付いていた。顔色が悪い日が何日も続き、日に日に口数が減っていく。本人は上手く誤魔化しているつもりだろうが、先輩様を舐めてもらっては困る。
何かを隠しているのは間違いない。だが、問い詰めても答えないだろうし、下手に踏み込んで雪哉が傷つくのは避けたかった。
「あ、やべ……スマホ忘れた」
部活終了後、自主練を終えて大久保、鈴木と共に帰ろうと学校を出て少し行ったところで、入れたはずのスマホを部室に置いて来てしまった事に気が付いた。
「悪い。先、帰っててくれ。取りに戻るわ」
「おう、お疲れ! またな」
先に進んでいた二人に手を振り、来た道を戻り部室へと向かう。途中、同じバスケ部員の飛田とすれ違った。軽く会釈して通り過ぎる。同じ3年だけど、無口で何を考えているのかわからないウチのPG。
いつも猫背で、纏う空気が暗くて気味の悪い奴。
別に嫌いではないが、あまり得意なタイプではない。というか、飛田って自主練参加してたか? あまりにも存在感が無さ過ぎて気付かなかった。
不思議に思いながら飛田と別れた後、部室の前に着きドアノブを握った時だった――。
「……はは、……ここまで来るともう、笑えて来る……」
一瞬、何が? と思った。突撃して問い詰めてやろうかとも思ったが、強情な雪哉の事だ。なんだかんだと言ってはぐらかして口を割らないのは目に見えている。
扉一枚隔てた向こう側に橘がいるとは気付いていないのだろう。雪哉の乾いた笑いだけが静かな部室に響きわたる。
「毎日毎日……一体、いつやってるんだろ? 飽きもせずよくやるよ……」
独り言の内容が気になって、たまたま薄く開いていたドアの隙間からそっと中を覗き込んだ。
雪哉のその手には、部活が始まる前に着ていたであろう制服が握られている。
「まぁ、ペンキとか……泥とかじゃないだけマシか……ノート類は取敢えず無事だし……」
小さく溜息を吐き、なんだかずしりと重そうな制服を当たり前のようにタオルで包んで袋に入れ、慣れた手つきでカバンの中へとしまい込む。
(いやいやいや、なんでそんな冷静なんだよコイツは!? ノート無事でよかったとかそんなレベルじゃなくね? だって、アレってつまり……そう言うことだろ?)
雪哉が隠していたものの正体に気付いた瞬間、かっと一気に頭の芯まで熱くなった。
何で雪哉はあんな普通そうな顔していられるんだ?
練習中の彼の姿を思い出す。和樹と連れ立って部室にやってくる時の、落ち着いて淡々とした声が頭の中にリフレインする。
二人で文化祭のクラス制作の進捗状況がどうだとか、白雪姫の衣装が早く見てみたいだとか、そんなどうでもいい話をしながら着替えて、体育館に移動して練習に参加して……。
自主練が終わった自分達と一緒になって、片付けをしたり雑談したりしていた。
今日あった出来事を思い返してみたが、少なくともそんな気配は微塵も感じなかった。
和樹は知っているのだろうか? いや、アイツの性格ならきっと黙っているはずがない。ということは……。
(――親友にすら、相談もしてないってか……? 一人で抱え込むなってあれほど言ってたのに……)
恐らく、他の連中にはまだバレていないのだろう。……どうすればいい?
ここで自分が出ていって、何が出来る?
今の事を先生にバラせば雪哉は楽になるのだろうか? でも、それで解決するのか? 根本的な元を正さないといけないんじゃないだろうか?
ぐるぐる回ってまとまらない頭の中で色々考えて、橘はスマホの回収を諦めることにした。
ドアに掛けようとしていた手を引っ込めて、そっと静かにその場を離れる。
雪哉が隠したいと思っている以上、その思いを汲んでやるべきなのかもしれない。
たく、一体誰だ。そんなくだらない事してる奴は――。
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