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犯人は誰だ!? 橘SIDE②
腹の底に沸々と怒りが湧いて来て、やり場のない感情を持て余しながら橘は、自分に何が出来るだろうか? と、考えていた。
先生に話すのが一番手っ取り早そうだが、雪哉がそれをしていない理由はなんだ?
なぜ、自分たちに……いや、和樹にすら相談しないのだろうか?
もしかしたら、犯人の目星が付いていて、自分たちに相談できないような相手、とか?
いや、まさか……な。 部員たちの中に、そんな卑劣な事をするような輩が居るなんて、出来れば考えたくない。
そもそも、雪哉が狙われている理由はなんだ!?
どうしたら、根本的な解決に繋がるのだろうか?
「――よし、決めた!」
……こうなったら、雪哉には知らせずにこっそり犯人をとっ捕まえて絞めてやる!!
誰の仕業か知らないが、それが一番平和的解決方法な気がした。
その為にはまず、犯行がいつ行われているのかを割り出さないといけない。
どうやって、部活中に部室に戻ろうかと考えていると注意力が足りないと、監督から怒られてしまった。
解せぬ。
犯行の時間帯さえ予測が付けば、現行でとっ捕まえることが出来るかもしれない!
こんなくだらない事は、さっさと犯人を捕まえて終わらせてしまいたかった。
だが、タイミングの合わないことに、1週間経っても、2週間経っても一向に犯人に関する重要な手掛かりが掴めないまま時間ばかりが過ぎていった。
雪哉の様子も相変わらずで、顔色も悪くなる一方だ。それでも表面上は明るく振る舞っていて、そんな姿を見ていると逆にこっちが泣きそうになってしまう。
よりにもよって、自分も雪哉も白雪姫のメインキャストに選ばれていて、他の部員達より圧倒的に自由が少ない。
ようやく犯行の時間帯が、雪哉が着替えて体育館へ移動してから、部活開始直前までの時間帯であると突き止めたのは、文化祭が始まる前日の事だった。
「……あ、やべ。スポドリ忘れたわ……悪いけど二人とも、先に行っといてくんね?」
「ははっ、何やってるんだ橘。明日の文化祭の事で頭がいっぱいで注意力が散漫なんじゃないか?」
「うっせ。すぐ戻るから」
からかい交じりに声を掛けてきた大久保と鈴木に軽く返し、くるりと踵を返した。
部活開始まであと15分もある。 犯人に制裁を加えてからでも何食わぬ顔で戻って来れるだろう。
部室まで行くと、明らかに中で人が動く気配がした。
緊張が走り、背中に嫌な汗が伝った。 出来れば、知り合いじゃありませんように、と願うような気持で深呼吸を一つして扉に耳を押し当てる。
「……あいつ、全然懲りないな」
「澄ました顔しやがって、ほんっとムカつく」
どうやら犯人は一人では無かったようだ。しかも、声の主を橘は知っているような気がする。 聞いただけで人物の想像が出来てしまう位、耳に馴染んだ声――。
「もう、いい加減辞めちゃえばいいのに」
「で? どうする? 盗聴器は結局役に立たなかったし……」
「それな。ペンタイプなら見付かんねぇと思ったのに」
――……え? 盗聴器? アイツらそんなもんまで仕込んでやがったのか!?
「もういっそ、切り刻んじゃえばよくね? 制服」
「おぉ、いいね」
下品な笑い声が耳に届いた瞬間、頭に血が上った。
切り刻むってなんだ? なんでそんなゲームみたいな感覚でそんな事が出来るんだ。
信じられないやら、情けないやら色んな感情が綯交ぜになって握った拳がぶるぶる震えた。
これ以上くだらない暴言を聞くのは堪えられなくて、拳を振り上げて、叩きつけるように部室の扉を開いた。
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