74 / 152

犯人は誰だ!? 橘SIDE ④

 「あいつが悪いんだ。みなみちゃんの決死の告白を、断って……挙句の果てに付き合ってもいないのにキスなんてして……っ!!」  吐き捨てるように呟かれたその一言に、橘は絶句する。 (――何だそれ……? そんな理由で、あんな事してたのか?)  そんなくだらない事に雪哉を巻き込んだのかと思うと、馬鹿馬鹿しくて、腹が立って、怒りがこみ上げてくる。 「あぁ、なるほど。それで今度はお前が雪哉に嫌がらせする番って訳か? ふざけんじゃねぇよ……そんなどうでもいい事にアイツ巻き込みやがって……っ」 「くだらなくなんてない!! 僕にとっては重要な事なんだ! それに……みなみちゃんが、『萩原君の弱み握ってくれたら何でも言うこと聞いてあげる』って言うから……」 「……は、引くわ……マジで……」  自分だったらそんな女、絶対に願い下げだ。そもそも、そんな事言われた時点で冷める。 (――雪哉がこんな奴らに振り回されてたって考えるだけで、腹が立つ……っ)  腹の奥底から湧いてきた怒りに橘は身を焦がす。  こんな奴らの思い通りにさせるか。これ以上雪哉を傷つけさせたりしない。 「お前らさ、おかしいと思わなかったのか? アイツがその、みなみって奴にキスしたかどうかなんて知らんけど、自分の手を汚さずに相手の弱点掴もうなんて虫が良すぎるだろ。お前らの好意って奴を利用されてるだけじゃねぇかそんなの」 「……な、なんだよ……、偉そうに……っお前に俺らの何がわかるって言うんだ!」 「知らねぇよ。わかりたいとも思わねぇ。ただ、哀れだな、お前ら……。利用されてる事にも気付かないなんて。心底同情するわ」 「っ、なっ!?」  目を丸くした飛田を嘲笑うように見据えて橘が鼻を鳴らすと、残りの二人もいきり立った。 「生意気言ってんじゃねーよっ! 何様のつもりだよ、お前っ!」 「そうだ! 調子乗ってんじゃねーぞ!」  カッとなった三人が一斉に飛び掛ってくる。  たいして痛くもないパンチを腹や頭に受け、橘がにやりと笑った。 「はは、バカじゃん。これで、正当防衛成立、だな――」  素早く身を屈め、拳を避けて懐に飛び込むと、そのままの勢いで顎先に向かって渾身の右ストレートを叩きこむ。 「ぐぇ……」  一発で伸びてしまった飛田が床に倒れ伏すと、橘は残りの二人を見据えた。 「お、おい……橘……冗談キツイぜ……」 「冗談? なんだよ、ビビったのか? 先に手ぇ出したのお前らだろうが」 「い、いや……俺たちは別に……」  すっかり怯えた表情を浮かべている二人に、橘はニヤリと笑う。 「何、情けねぇ声出してんだよ。男ならもっと堂々としろよ。陰でこそこそと虐めるしか出来ないようなゴミカスが……っ」 「ひぃ……っ」 「もう辞めようぜ……っ。こいつ……やべぇよ」  完全に腰が引けた状態でじりじりと後退していく二人の背中が壁についた。 「逃げんなよ。萩原の受けたダメージはこんなもんじゃねぇんだ。お前らが受けた傷は2,3日で治るかもしれねぇけどな。アイツの受けた心の傷は……もしかしたら一生残るかもしれないんだぞ」 「……っ」  二人の顔から血の気が引いていくのが目に見えてわかった。 「情けないよ。お前ら……なんで、今なんだよ……。俺らあと少しで引退だろ? こんな大事な時期に、なんで……。つか、お前らの3年間賭けてまで、やらなきゃいけない事だったのかよ!?」  思わず声を荒げると、二人が俯いて沈黙する。  一年の頃からずっと一緒にやって来た仲間だと思っていたのに。毎日毎日吐きそうになりながら、きつい練習にも耐えて、汗を流して来たじゃないか。それなのに、なんでこんな事――。

ともだちにシェアしよう!