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犯人は誰だ!? 橘SIDE ⑤
「……羨ましかったんだ。アイツの事……」
ポツリと誰かが呟いた。
「俺らが必死に努力したって出来ないことを、いきなりやって来てあっさり出来ちまうし……。女子にはモテるし……。悩みなんて全然ありませんって感じで澄ました顔しやがって……」
「……」
「それなのに、オレらが憧れてたみなみちゃんの告白を無駄にするなんてさ……許せなくて、ちょっと懲らしめてやるつもりだったんだ」
「……お前ら、それ、本気で言ってんのか?」
低い声で尋ねると二人は小さく震えた。
「あいつに悩みが無い? 俺らが出来ないことをあっさりやってる? ……ふざけんな。この二年間、アイツの何を見て来たんだよ」
橘はふつふつと腹の奥で煮えたぎる何かに突き動かされるまま、沸き上がってきた言葉を素直に口にする。
「毎日毎日、部活メニューだけでもへとへとになって帰るお前らは知らないかもしれないけどな、アイツは一人で外が真っ暗になるまで練習続けてんだぞ! 毎日だ。 集合時間に遅れたことも無けりゃ、部活サボったことも無い! そりゃ、才能だってもちろんあるかもしれないけどな、それに胡坐かいてる訳じゃねぇだろっ。アイツが毎日何本シュート打ってるのか数えた事あるか? 今回の事だって、誰かに相談することだって出来たはずなのに、アイツはそれをしなかった――。なんでだと思う? 誰にも迷惑かけたくないからだ……。悩みが無いように見えんのはな、そう見えないようにアイツが上手く隠してるからだろうが!」
堰を切ったように溢れだした言葉の数々のせいで、全身が熱い。怒りに震える拳を、押さえつけるのに必死だった。
「それになぁ、アイツは確かにバスケに関しちゃ天才かもしんねぇけど、それ以外じゃお前らと変わらないただの高校生だぞ? 何が『ちょっと懲らしめてやろう』だ。大した努力もしないで上から目線で物言ってんじゃねぇよ……!!」
「……」
言いたい事をぶちまけて息を切らしていると、二人は呆然と立ち尽くしていた。
「……なんだよ、なんか言えよ。まさか、反論もできねぇとか言わねぇよな?」
冷めた声で促すと、二人が気まずそうに目を逸らす。
「……っ」
「……今回の事、穏便に済ますつもりねぇから」
押し黙った奴らを見回して、何とも酷い気分で体を反転させた。早く部活に戻らないと15分経ってしまう。
「ごめん」
「それは、俺に言うセリフじゃねぇだろ」
「……そう、だけど……違うんだ」
「……?」
ドアノブに手を掛けたまま、背中越しに聞こえてくる声に耳を傾ける。違うって、何が?
「もしかしたら、もう間に合わないかもしれないけど――……今回の件、主犯格は俺らじゃない」
「――は?」
思わぬ言葉に橘が振り返ると、ようやく起き上がった飛田が辛そうな顔をして口を開いた。
「今ごろ、もっと酷い目に遭ってるんじゃないかな?」
「……どういう、事だ……?」
主犯格が別にいる……? 何を言っているのだろうか。それに、もっと酷い目に遭う、とは?
「ふざけんなっ! 何の話だよ……アイツに何かする気じゃねぇだろうな?」
「……っ」
飛田の胸倉を掴んで怒鳴り散らすと、残りの二人も青ざめた表情で俯いてしまった。
「答えろよ! 何を企んでる!?」
「内容までは、し、知らないっ! ただ……決行するなら今日しかないって言ってたから……っ」
「適当な事抜かしてんじゃねぇぞ!?」
「嘘じゃない。本当なんだ……詳しい事は俺らにはわからないけど」
「……っ、チッ」
思わず舌打ちして掴んでいた手を放す。何が起きているかわからないが、どうしようもなく嫌な予感がした。
「……もし雪哉に何かあったらお前らマジで殺すぞ……」
最後にドスの効いた声で脅しをかけて部室を出る。太陽は既に西に傾き始め、眩いオレンジの強烈な光に目が眩んだ。
「なんなんだよ、一体……っ」
先ずは、雪哉と合流しよう。側にいれば危険を察知できるはずだ。
部活開始まで5分を切っている。橘ははやる気持ちを抑えて、祈るような気持で体育館までの道のりを全力疾走した。
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