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犯人は誰だ!? 雪哉SIDE⑤

「……たく、心配かけさせやがって……」 「……っあの、ありがとうございました」  素直にお礼の言葉を口にすると橘は短く息を吐いて、自分のジャージを脱いで雪哉に着せた。  彼の体温で温まっていたそれからふわりと橘の使っている柔軟剤の香りがして、無意識のうちに鼓動が跳ねる。  ちらりと見上げると橘はまだ怖い顔をしている。だが、先ほどまでの視線だけで人を射殺せそうなほどの怒気は感じられない。  軋む体を気遣ってか、腰に腕を回して体を支えながら歩幅を合わせて歩いてくれる。 「……礼なら、和樹に言えよ」 「え? 和樹……ですか?」  突然意外な名前が出て来て、雪哉はきょとんとした表情をする。 「アイツ……、お前がおかしいのに気付いててマッスーに泣きついてたんだ。アイツが居なかったら、お前を見付けるのがもっと遅くなってたと思うとゾッとする」 「そう、だったんですか……」  橘の言うことが事実だとしたら、和樹は雪哉の異変を察知して増田と共にずっと原因を探っていてくれていたと言うことだろうか?  迷惑を掛けたくなかったのに、結局彼に助けられてしまった。 「……でも、お前が無事で本当によかった」  くしゃっと髪を撫でられて、ハッとして顔を上げた。  形のいい眉が切なげに寄せられ何処か苦し気な瞳が雪哉を見下ろしている。  橘の温かい掌が雪哉の頬をそっと撫で、腫れた傷口を見て橘の表情が苦痛を受けたように僅かに歪んだ。 「取り敢えず手当しねぇとな。保健室まだ開いてるだろ」 「あ、大丈夫ですよ。このくらい……」 「いいから、来い!」  厳しい口調で言われヒャッと身体が竦んだ。有無を言わせず肩を引き寄せられ、保健室のある校舎へと連れて行かれる。  薄暗い部屋には誰もおらず、橘は丸い椅子に雪哉を座らせると、真っ先に冷蔵庫からアイスパックを持って戻ってくる。 「取り敢えずこれで腫れてる所冷やせ」  頬にアイスパックをあてると殴打されて熱を持った部分がずきんと痛んだ。  その間に橘は、慣れた手つきで保健室を漁り必要な物品を揃えていく。 「なんか随分手馴れてるんですね。先輩。もしかして保健室の常連?」 「バカ言ってんじゃねぇよ。一年の時保健委員だったんだよ。薬品とかの置き場所はそん時覚えた」 「え、……保健委員? 先輩が……? っへ、へぇ……先輩が」 「今、似合わねぇって思ったろ? つかほら、じっとしてろ」  橘は雪哉の反応を見て睨み付けると、小さく息を吐いた。ガーゼに消毒液を染み込ませ血の 滲んだ部分を手際よく拭いていく。  さっきまで気付かなかったが、体の至る所に鬱血した痕が残っている。  消毒液の冷たさが、穢れた体を清めてくれるような気がしてホッとした。  何度かガーゼを取り替えて、最後に唇の端にそっと当てられる。 「いっ……」  何度も殴られたせいで一番ソコが沁みる。  僅かに引いてしまった顎を捕えて顔をやや上向きに固定された。キスするような体勢と距離に顔が熱くなった。 「口開けよ」  言われたとおりに唇を開くと、口の中を覗き込まれた。  指先が口の中へと差し込まれ軟膏を口腔内に塗りこまれる。  橘の指が舌に当たって急にソコを意識してしまった。  橘の顔が近すぎて、心臓がバクバクと早鐘を打ち出す。跳ねまわる鼓動が体中にうるさく響いて、橘に聞こえてしまうんじゃないかと心配になった。 「……思ったより酷く無くてよかったな」  ホッとしたような声がして、近かった橘の顔がゆっくりと離れていく。  別にキスを期待していたわけではないが、なんとなく名残惜しいような気持ちになる。 「んだよ、キスして欲しかったのか?」 「……ちがっ」  甘さの滴るような指先が唇を撫で、カッと身体が熱くなった。  そんなに物欲しそうな顔をしていたのかと思うと恥ずかしくて仕方がない。

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