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犯人は誰だ!? 雪哉SIDE ⑦

「あ、あのっ大久保先輩は? 大会、出れないとかないですよね?」 「なんで大久保の名前が出て来るんだよ。……まぁ、飛田のヤツは出場停止になるだろうけど、大久保は関係ないだろ」 「え、飛田先輩?」 予想外の名前に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。 「……お前の物を隠したりしていた犯人。アイツだったんだ……だから、大久保は関係ない」 橘はそう言うけれど、本当だろうか? 橘が、そう信じたいだけなんじゃ?  そんな風に考えてしまう自分が情けない。 でも、仕方がないじゃないか。実際この目で、赤いペンキを持っている大久保を見てしまったし……さっきの件も自分に行って来いと背中を押したのは大久保だった。そう言われてみれば盗聴器を仕掛けられた日も自分と接触して来たのは大久保だったじゃないか――。まさか、グルなんじゃ……。 「――安心しろ。大久保は犯人の一味じゃないよ」 疑心暗鬼に陥っていると、表情を読んだかのタイミングで扉が開き、増田がひょっこりと顔を出した。 「増田先生……それって――……」 「雪哉ぁ……!! 良かった無事で……っ」 全部言い終える前に、増田の陰から飛び出してきた和樹が飛びつかんばかりの勢いで抱き着いてくる。 (和樹……本当に心配してくれてたんだ) その温もりに、じわりと胸が熱くなった。 「和樹、ごめんね……」 ぎゅうと抱きしめ返せば、和樹は何度も首を横に振った。 「雪哉が謝ることなんてない!……っ 俺がもっと早く気付いてればこんなことならなかったのに……っ」 目にいっぱい涙を溜めながら、和樹が顔を上げ、傷のついた頬をそっと撫でると口をわなわなと震わせてグスッと鼻を啜った。 「あぁ、どうしよ……、雪哉……雪哉がキズモノに……っ雪哉が掘られたなんて……!」 「い、いやっ! ソレは大丈夫! なってないからっ!! 先輩がちゃんと助けてくれたからっ!」 真っ青な顔をして、大げさに泣き崩れる和樹に雪哉は慌てて訂正を入れた。 確かに殴られたし、殴られた部分はまだ痛む。けれど、それ以上に恐怖で震えるほどのことはされていない。 「ほんとうか? 雪哉ケツは無事なのか?」 「大丈夫だからっ!」 何だろう、心配されるのは嬉しいけど、変な誤解をされているようで居た堪れない。 「つか、よかった。大久保まで疑わなきゃとか……考えただけでもゾッとする」 「……でも、僕、見たんです……大久保先輩が赤いペンキ持って歩いてるの……。時期もぴったり合っているし……だから僕、誰にも言えなくて……」 「……萩原……」 「――その事だけど、飛田が詳しく吐いてくれたよ。まぁ、結論から言えば、大久保は濡れ衣を着せられそうになってたって事だな」 増田の言葉に、雪哉は目をぱちくりとさせた。 「大久保は人がいいからなぁ。疑いの目を大久保に向けさせるために、赤いペンキを持って行ってくれって頼んだら快く引き受けてくれたそうだ。 後は多分、思い込みによるタイミングの問題だったんじゃないか?」 そう言って、増田は苦笑した。 「……なんだ、そっか……」 張り詰めていた緊張の糸が解けてホッと息を吐く。と同時に、大久保を信じ切れなかった自分の単純さに嫌気がさした。自分は結局、飛田に踊らされていただけだ。 最初から、騙されていたのだ。

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