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犯人は誰だ!? 雪哉SIDE⑧

「まぁ、なんにせよ飛田達はしばらく謹慎処分になるだろうから大会には出られないな」 「……あのアホが……っやっぱもう2,3発くらい腹にでも食らわしてやればよかった」  忌々し気に橘が舌打ちをする。目標にしていた大会まで、もう1か月を切っている。橘や飛田にとっては最後の試合で、引退する日もすぐそこまで迫ってきている。  3年間一緒に頑張って来た仲間の裏切り行為が許せない気持ちは痛いほどわかる。それに確か……大会直前に問題行動を起こした部活はもれなく連帯責任で試合に出られないのではなかっただろうか?  ふと、頭を過った嫌な予感にハッとして慌てて増田を見た。 「……先生、もしかして僕らも……大会に出られないんじゃ……」 「ん? あぁ、大丈夫。その辺は俺が《《上手くやる》》から心配はいらない。ただ、問題は……あの子なんだよなぁ……」  雪哉の問いに増田は意味深な笑顔で答えたあと、腕組みをしてため息をついた。 「あの子?」 「…………朝倉、みなみ……か……」  橘の口からポツリと呟かれたその名を聞いて、雪哉の心臓がドクンと跳ね上がる。  何故またここで彼女の名前が出て来るのか、と思ったが以前見たブログの内容を思い出し苦いものが込み上げてくる。 「色々と調べていくうちにわかったんだ。この一連の騒動の黒幕は朝倉さんでほぼ間違いないだろう」 「……」 「彼女は、自分の可愛さに絶対の自信を持っている。加えてひとの心を煽るのが異常に上手い。飛田や城元がまんまと乗せられてお前を襲ってしまったように、アイツにいい様に動かされて今回の事件が起こった」 「……けど、なんで……彼女だって決まったわけじゃ……」  そうは言ったものの、雪哉自身も薄々気付いていた。真実を知らないものが彼女のブログでの虚言を見たら、「雪哉は女子に酷い態度を取る奴だ」と、言う風に受け取るだろう。 「そこなんだよ。飛田は”雪哉の弱みを握れば何でも言うことを聞いてあげる”と言う彼女の言葉を信じて今回の一連の犯行に及んでいる。だが、恐らく彼女は知らぬ存ぜぬで通そうとするだろう。……証拠が無いんだよ。彼女がそう言ったと言う証拠が……俺達がどれだけ、彼女に詰め寄ったって「私はそんな事言ってません」と彼女がしらばっくれればそれで終わりなんだ」 「そんな……」 「飛田はバカだからなぁ。きっと彼女の事を信用しきってるだろう。そしてそれは飛田だけじゃない。他の部員達もそうだ。皆、あの子の口車に乗せられて飛田と同じようにお前を陥れる側に回っていた可能性が高い。そして、ついさっき萩原を襲撃した城本も……指示を出したのは恐らく彼女だろうな」 「……やっべ、朝倉さん超ヤバイ女じゃん」 「腹黒女め……。人の気持ちを何だと思ってるんだ……っ」  橘は怒りのせいか、拳を震わせながらそう毒づいた。 「まぁ、彼女は一筋縄ではいかなさそうだし、じっくりと対策を立てるとして。少なくともほとぼりが冷めるまでは大人しくしているはずだから。明日は、心置きなく楽しまないと、な?」  ニッコリと微笑む増田の表情が妙に怖い。  今日の一連の騒動ですっかり忘れそうになっていたが、そう言えば明日は文化祭じゃないか。 「……別に僕は……っ」 「楽しみにしてるよ。萩原のお姫様姿。ほら、行くぞ和樹」 「あっ、うん。じゃぁ……雪哉。また明日な」 「あぁ……明日」  雪哉が答えるより先に増田は和樹を連れて部屋を出て行ってしまう。  残された雪哉はぽかんと口を開けながら去っていく二人を見送った。

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