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いざ、文化祭! ②
「――……っ!」
振り向いた雪哉の目に飛び込んで来たのは、青を基調としたブラウスタイプのトップスに白いタイツ。赤いマントと大きな羽つきの帽子が実に印象的な橘の姿。
「……馬子にも衣装って感じですね」
「――――っ」
冗談めかして言ってみたけれど、返事は返ってこなかった。じっと自分を見つめて来る橘の視線が痛い。無防備に驚き顔をした橘を見て、雪哉は少し不安になった。なにも反応がないのは結構辛い。
「なんだ、それ似合わないな」って、笑い飛ばしてくれた方がよっぽど気が楽だ。
互いに一言も喋らない状態が続いて、二人の間に奇妙な沈黙が生まれた。どうしよう、なんか凄く気まずい。
「えっと、先輩?」
沈黙に耐え切れなくなって思い切って声を掛けたら、橘が弾かれたように顔を上げた。途端、視線がぶつかる。
「あまりにも似合わないからって絶句しないでください。流石に凹みますってば」
「悪い。そうじゃねぇよ。――寧ろ逆だ! 似合いすぎてて、ちょっとビビった」
「えっ?」
「……綺麗だ。本当に」
「……っは、恥ずかしい事言わないでください……」
不意打ちでそんな事を言われて、雪哉は耳まで真っ赤にして俯くことしか出来なかった。
そんな雪哉の頭をクシャクシャと撫でて、橘はふっと目を細めた。
「はいはーい、そこ! 舞台袖でイチャイチャしない! もうすぐ本番だからな。気合入れて行けよ」
「なっ、別に僕たちはイチャイチャなんてしてませんっ!」
「そーっすよ!マッスー。変な事言わないでくださいっ」
「あー、わかった、わかった。とにかく、……此処まで来たらやるしかないだろ。頑張れよ」
にっこりと笑う増田に背中を押され、雪哉は顔を引き締めた。舞台の幕が開けようとしている。
「行ってこい、萩原」
橘の出番は後半戦の為、前半は主に裏方の仕事を手伝うことになっている。
「……はい!」
コツンと互いに拳を突き合わせ、雪哉はゆっくりとステージへ向かって行った。
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