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いざ、文化祭 ③

客の反応は上々。出演者が全員男だと言うのがウケたのかはわからないが、時折聞こえてくる笑い声に雪哉達はホッと胸をなでおろしていた。  「なんか、冷めた目で見られたらどうしようかと思ってたけど、大丈夫そうだな!」  「ほんとに。みんな楽しんでくれてるみたいでほっとしたよ」  舞台袖で和樹とそんな会話を交わしながら、確かな手応えを感じていた。  物語は順調に進み、あれよあれよという間に問題のシーンてと突入していく。  「頼むぞ、雪哉」  「う、うん……」  緊張と不安と、色んな感情が入り混じった複雑な気分のまま簡易式ベッドの上に横たわり、ガラガラと舞台の中央へと運ばれていく間、雪哉は何度も深呼吸を繰り返した。  大丈夫、大丈夫だ……。キスするフリなんだ。 これはただのフリ――。目を瞑ってさえいればすぐに終わるから……。  その瞬間を待つ間、何度も何度もそうやって自分に言い聞かせる。  そして、いよいよパァっとスポットライトが雪哉に標準を合わせた。まばゆい光に照らされて思わず顔をしかめた雪哉の頭上にふっと影が差す。  「――ああ、愛しい白雪姫よ私の口づけで目を覚ましたまえ……」  「――っ」  ゆっくりと近づいてくる橘の気配に身体にいくつも心臓があるみたいに、あちこちがドキドキしだす。  目を閉じていても感じる、橘の存在に緊張で息をするのも忘れてしまいそうだった。  ふっと鼻先が触れ、橘の吐息が唇にかかる。  そして――。  「……悪い、萩原」  「――ぇっ」  ボソリと、橘が呟いたと瞬間チュ、と唇に何か柔らかい物が触れた。  「……ンッ」  なにが起きたのかわからない。だけど、確かに唇は橘のそれと重なっていて……。  キス、されている。そう認識したとたん雪哉の頭の中が真っ白になった――。  「おい、雪哉! 何やってんだよ。芝居、芝居っ!」  和樹の囁きで雪哉はハッと我に返った。そして、思いっきりガバッと勢いよく跳ね起きた。  その瞬間、橘のおでこにゴチッと自分の額をぶつけてしまう。  「いって~~っ」  お互いに額を押さえて悶絶すること数秒。  シンと静まり返っていた場内からドッと笑いが沸き起こった。

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