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いざ文化祭 ④
文化祭一日目も無事に終了し、興奮冷めやらぬ一同は近所のファミレスに押し掛けちょっとした打ち上げパーティを開いていた。
「もー、雪哉がピクリとも動かなかったときはどうなることかと思ったけど」
「いきなり飛び起きるとか反則っすよ! アレはマジでウケたっす」
「なんたって、王子様のおでこに頭突きだもんな!」
あははっと笑いながら、芝居の事を話題に出され雪哉は何とも居た堪れない気持ちになる。
「それまでのシーンが凄いいいムードだった分、アレは強烈でしたね。でも俺……雪哉達が本当にキスしているように見えたんだけどな」
「――っ」
和樹の言葉に、俺もそう見えた!! と、小人役で周囲を囲んでいた面々が一斉に雪哉達の方へと視線を向けて来る。
「……んなわけねぇだろっ! 馬鹿! 目の錯覚だよ、錯覚! なぁ、萩原?」
突然その話題を振られ反射的に肩が震えた。
でも、ここでどもってしまっては怪しまれると思い、咄嗟にコクコクと激しく頷く。
「ほら見ろ。萩原もアレはフリだったって言ってるじゃないか!」
そっかぁ、オレ達の目の錯覚かぁ。と、納得するメンバーの中で和樹だけは疑いの眼差しを崩さなかった。
それ以上はなにも言わなかったけれど、もしかしたら角度的に和樹の位置からは見えていたのかもしれない。
「ゴメン。ちょっとトイレに行ってくるよ」
和樹の視線に居心地の悪さを感じて、雪哉は堪らず席を立った。
トイレに駆け込み、自分が今どんな顔をしているのか鏡の前に立ってチェックをする。
きっと、酷い顔をしているんじゃないかと思ったけれど以外と普通の顔で安心した。
それにしても――なんで、橘はあんなことを……。
台本にも、フリだって書いてあったのに。
そっと、自分の唇を指でなぞってみた。途端、さっきの触れ合った感触を思い出してしまい、ぶわっと体温が上がる。
「萩原……、ちょっといいか」
なんとか気持ちを鎮めようと、深呼吸をしながら髪を整えているとよりにもよって橘が中に入ってきた。
何か言ったほうがいいんだろうか? 聞きたいことはあるけれど、それを上手く言葉に出来なくて重い沈黙が二人を包み込む。
どうしても口元に目がいってしまい、恥ずかしくてまともに橘の顔が見られない。
いっそ逃げ出してしまいたい気持ちに駆られたが、出口は橘の身体で塞がれているためにそれは適わなくて、おたおたと視線を彷徨わせる雪哉を見て橘が困ったように息を吐いた。
「……悪かったな」
「え?」
「その、マジでキスしちまった事、反省してる」
「……」
「お前の顔見てたら、どうしても我慢できなかったんだ」
――えっ、我慢、出来なかったって一体どういう――?
「先輩、それって……」
「っ! 言葉どうりだよっ」
ぐっと強く腕を引かれ、きつく抱きしめられた。
「えっ、ちょっ!?」
「やっぱ、お前に白雪姫なんてさせるんじゃなかった。可愛すぎンだよっ」
「可愛すぎって言われたって。僕には先輩の言ってる意味がわかりません」
アレのどこを見たら可愛いなんて言えるのか、皆目見当もつかない。
「たくっ、ずっと堪えてるつもりだったのに……」
ぼそりと橘が呟いた言葉が耳に響いて、なんだか急にドキドキして来た。
それって、もしかして……?
橘は何を言うつもりなんだろう? 自分と同じ気持ちでいてくれていると期待しても、いいのだろうか?
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