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いざ、文化祭! ⑤

「実は俺――……ッっ」 「あ! いたいた。遅いよ雪哉。 みんなもう、店出るって――って、あれ?」  急に扉が開き、和樹が顔を出す。長話をしていたつもりは無かったが、わざわざ探しに来てくれたらしい。  あまりのタイミングの悪さに、橘ががっくりと肩を落とすのがわかった。 「――鷲野……てめぇ……っ!空気読め、馬鹿野郎がっ!」 「えっ、空気って何っすかっ…て! なんで凄むんですかっ!?」  何故か橘に胸倉を掴まれ、ガクンガクン揺すられる和樹の姿を見て雪哉は何処かホッとしている自分が居ることに気付いた。  橘が何を言おうとしていたのか、気になるけれど……流石にトイレでは聞きたくないし、期待していた言葉と違っていたらどんな反応をしていいのかわからない。 「……橘先輩、とりあえず出ましょう。和樹が死にかけてますから」 「あ、ああ……」  橘はチラリと和樹の方へ視線を送るとバツが悪そうに胸倉を離した。 「もー、なんなんだよ……。ホントに死ぬかと思った」 「そう簡単に死ぬようなタマじゃねぇだろお前は」 「ひっど! なんか理不尽っ!」  和樹からすれば完璧なとばっちりだ。でも、そのおかげで気まずくならずに済んだ。 「……ありがと、和樹」 「え?何が?」 「ううん。なんでもない!」  ふふっと笑みを浮かべる雪哉に和樹が首を傾げる。そんな二人の姿を見ながら橘がひっそりと溜息を吐いていたことに二人は気付かなかった。

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