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第6話

「はあ…」 眠れない 昼間にあれほど寝てしまったから当たり前だ 覚めきっている目を擦り、ベッドから起き上がる 外を見ると真っ暗で、時計を見ると午前2時に針が回っていた もう眠るのは諦めよう 寒そうだったから軽く上着を着てパジャマのまま靴を履く 今日は体がとても熱い。きっと熱がぶり返したのだろう 外の風に当たって体温を冷やしたかった 「美風」 ちょうど扉を開けようとした時に後ろから呼ばれた そこには美風同様にパジャマ姿の兄がいた 「…まだ、起きてたの?」 「うん、眠れなくて。美風はどこ行くの?外は暗いし危ないよ」 嘘だ さっきまで寝ていたのだろう それに僕は女の子じゃないんだからこれくらい平気だ 必死に目を擦っている兄にため息が漏れる 「僕も眠れないから散歩。すぐ帰るから大丈夫」 「待って、俺も行く」 そう言って兄も上着を羽織りパジャマ姿のまま2人で家を出た 両親に気づかれないようそっと ドアを閉めた 静かな夜 春になり始めの心地よい風と、新しい虫の声 薄暗い道を微かな電灯の光に沿って歩く 誰もが眠りについている時間にこうやって散歩をするのはとても気持ちがいい 美風は眠れない夜はよくこうして一人で歩いていたが、今日は兄が隣にいることで新鮮な感じがした 「風が気持ちいね」 「うん」 「星が綺麗」 「うん」 「体は大丈夫?辛くない?」 「うん」 兄さんはとってもお喋りさん 何度も何度も声をかけてくる兄に適当に相槌を打ちながら歩く 少ししてから歩き疲れた美風を気遣って、公園で一休みする事にした 自販機で買ってきたジュースを飲みながら、兄の一方的な会話を聞き流して時間を過ごした 「美風」 「何?」 「いや、なんでもない。もう帰ろ、少しでも寝なきゃ」 そう言って兄は美風の手を取り、家まで手を繋いで帰った 本当は離してもよかった 普段ならそうしていた でも、今だけは兄に甘えたい気分だった 繋いだ部分からじんわりと暖かくなっていく 人の体温と自分の体温が混ざり合う事がこんなにも心地いいなんて、美風は知らなかった 「おやすみ、美風」 「うん、おやすみ」 家に帰って兄と別々の部屋に向かう でもどうしても寝れそうにない 兄の方を振り返って咄嗟に兄を呼んだ 「兄さん」 「何?どうしたの?」 「やっぱ今日、一緒に寝ていい?」 「…うん、うんいいよ。おいで」 久しぶりに甘えを見せてくれたのが嬉しいのか、笑顔で美風を部屋に招き入れる 美風は少し遠慮がちにベッドに横たわるが、兄がぴったりと体を寄せつけてきたせいであまり意味は無かった 二人で使うのには小さく感じるベッドも、美風は不思議と悪い気はしなかった 兄は美風を自分の胸に抱き寄せる 小さい頃から悪夢でよく魘された美風によくしてくれたものだ とんとんと一定のリズムで背中を叩いてくれる。それがとても気持ちいい 子供の頃と同じように優しい手つきと、兄から聞こえる小さな心音 兄は変わらない ずっと僕を見ていてくれる だから、僕も兄さんが好き 今日だけは、と美風は温かい兄の胸の中で眠りについた

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