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第7話

「おい、早く立てよ」 今日は朝から最悪 学校に来るや否や悠雅君に胸ぐら掴まれ、校舎裏まで引き摺られてきたあげく、いきなり殴りかかってきて今この状態だ 今日は珍しく悠雅君の取り巻きがいない 私情で僕を連れてきたのだろう だったら話す内容はもう分かりきっている 「昨日お前が休んだせいで恭冴が帰っちまったじゃん」 ほら、兄さんの話 「一緒に、帰りたかった?」 「うるせーよ」 いつまでもヘラヘラ笑っている美風にイラついたのか重たく腹を殴られる もちろん受身も取れない美風は抵抗する事なく腹を抱えてしゃがみ込む どれほど痛くても美風は声を出す事はない それが余計に癪に触るようでうずくまる美風を何度も何度も蹴り飛ばす 的確に弱点を狙ってくるから一撃ひとつひとつが痛かった それでも美風は笑い続ける 「はやく、けほっ…告っちゃえばいいの、に」 どれほど殴ろうが、痛みに怯む事のない美風に、流石に気味が悪くなったのか、はたまた呆れたのか 半分諦めたように美風の目の前にしゃがんで髪を掴み、無理矢理顔をあげさせると 「お前に、何がわかるんだよ」 いっつもこう 悠雅君は普段は強いのに、兄の事となると、途端に小さくなる だから、美風がいちいち心のケアをしてあげているのだ 我ながら優しいのではないだろうか 「わかんない、でも兄さんも、ゆうがくんのこと好きだと思うよ」 「………」 殴られたときに舌でも噛んでしまったのか、喋ると血の味がして、上手く喋れない 「まじ、キモすぎ。お前リンチしてくるやつにそんな事言うか、普通」 「だって僕、悠雅君のこと好きだもん」 「……は?」 惚けたような声を出す悠雅を置いて、口を拭いながら美風は遠慮なく続ける 「だってイケメンだし、運動できるし、頭いいし、イケメンだし?」 「…おまえさぁ…」 「だから別にお似合いだと思うけどな。兄さんと。男女関係なく」 これは美風の本音である 実際美風は幼い頃から悠雅のことが好きだった でも同時に兄と悠雅を応援している節もある 悠雅が兄に向ける好きと美風が悠雅に向ける好きとは大きな違いがあることは美風自身も理解している 簡単に言うならば悠雅の好きは愛で、美風の好きは、単なるタイプの話だ だから、美風は悠雅の顔が好きってだけであとは特になんとも思っていないのも、また事実である 悠雅君、性格悪いし 悪く言えば、顔以外なんの魅力もない あんな性格だから当たり前だが、美風はつくづく勿体ないと思う だが、そんな悠雅も兄の恭冴と一緒にいる時だけは、キラキラ輝いているように見える 普段より、僕を殴る顔より、そっちの顔の方が断然好きだった 「…誰にも言うなよ」 「言わないよ。言ってもなんもないし」 「ほんとキモい」 そう言って悠雅は美風を置いて、行ってしまった やれやれ、やっと行ってくれたか 怒っているときの顔はあまりタイプじゃない せいぜい遠くから2人を見守るくらいがちょうどいい 服の汚れを落としてトイレに向かう トイレの鏡を見ると顔は赤く腫れ上がり、口の端は傷が出来ていた 今日はマスクをしよう そうすればこの傷も隠せるだろう トイレから出て教室に入る 机に書かれた落書きなど無視して、机に突っ伏し美風は眠りについた

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