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第8話 嫌なこと

「ふぁ…」 ほとんどの授業を寝て過ごした美風から気怠げなあくびがでる よく一番前の席で寝られるものだ 教師がいようとお構いなし ぐっすり寝て夢だって見られた 昨日はそこそこ寝てなかったし あ、今日も夜眠れそうにないな 負の連鎖である だが、声をかけない教師の方にも問題はあると美風は思う だいたいの教師は美風の事情を知った上で面倒臭そうに眺めてるだけ 事情を知らなかったとしても美風の机の落書きを見て声をかけるのを止める教師がほとんどだ この学校に入りたての時は担任も優しかったのに僕を知った途端に冷たい眼差しで見てくるようになったし まあ、気持ちもわからなくもないし 実際美風はそれを分かった上で利用しているからこっちがどうこう言える立場ではないことくらいわかっている そうこう帰りのHRを聞き流しながら帰る準備をする スーパーよって材料買って掃除して洗濯して… 「わっ恭冴君だ…」 「どうしたの?何か用があるの?」 「在間じゃん、久しぶり!」 いろいろ考えていると教室の入口付近がなんだか騒がしい事に気がついた 目を凝らすと見覚えのある顔が見えた まずい、そう思った時には遅かった 「あ、美風。一緒に帰ろ?」 しまった… なんで今日はこんなに早いんだ 「何してるの?美風、はやく」 「…わかったよ」 荷物を持って兄の元へ歩く その間も美風に当てられる冷たい視線は昔も今も慣れないままだ おずおずと人混みにぽっかり空いた道を行く 真っ直ぐ兄が見えるのに周りの奴らが美風に視線を当てるほど、まるで閉ざされているかのようで、重く、硬い扉が目の前を遮る 「…出待ちのストーカーみたい」 やっとの思いで兄の側に行って出した第一声がこれである 兄はそれを聞いて誤魔化すように笑うが、美風は結構本気である 兄さん あなたは全てが完璧なのに空気を読むことは苦手みたいだ げんなりしている美風をよそに兄の恭冴は美風の手を勝手に握り、指をいじったり、撫でたりしている じろじろと周りの目が気になって仕方がない こうなれば早く学校を出た方がよさそうだ 「おい、恭冴!置いて行くなって」 「ごめん!美風が心配で…」 足早で廊下を歩いていると、おそらく兄を探していたのだろう悠雅とすれ違った 兄の言った言葉に悠雅は美風をジロリと睨みつけるが、美風はこの好機を逃すまいと、咄嗟に口を開いた 「えー!兄さん悠雅君と帰るのー?仕方ない。僕は1人で帰るから!」 「え、待って美風。美風も一緒に…」 「ぜんっぜん気にしなくていいよ兄さん!あ、急がないと用事に遅れちゃう。じゃっ!」 必死に止めようとする兄を無視して勢いとノリでその場凌ぎをし、前にいる悠雅とすれ違う際には 「後はよろしく」 とだけ言ってその場を走って去って行った 一件落着だ 悠雅君と兄さんは2人で帰れるし、僕は静かに落ち着けるし、一石二鳥ではないか 美風はなんだか気分が良くなって軽い足取りで家に向かった が、途中で気になる本屋を通ってしまったため、新作が出てないかだけ確認しよ うと思い中に入ったが、気づけば外は日が暮れていて空は真っ赤に染まっていた

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