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第11話 大好きな
しばらく玄関で立ちすくんでいたが、こうしてる場合ではないことに気づきリビングにいる兄の所まで戻った
「ちょっと兄さん、なんであんな酷いこと言ったの」
「…みかさっ」
「うわ、どうしたの…兄さん?」
リビングに入るや否や兄に向かって怒ろうとしたが、兄が不安気な顔で抱きついて来るものだから、言いたい事が全部引っ込んでしまった
「美風、なんであいつと帰ってきたんだよ。俺が心配してる間、あいつと遊んでたのかよ」
ああ、そっか
兄さんは過保護だから、すぐ心配になっちゃうんだった
せっかく心配してくれた兄を無視して僕はそこら辺ほっつき歩いて
兄からしたら相当ムカつくだろうな
「違うよ、悠雅君とは、帰りにばったり会っただけ。心配かけてごめんね」
「…本当?」
「ほんと。だからさ、あいつなんて言っちゃダメだよ。明日ちゃんと仲直りしてね?」
「…俺は、美風のオムライス好きだよ」
「うん、ありがと」
それから朝まで、兄は美風から離れようとはしなかった
風呂は流石に美風は拒否したかったが、兄がどうしても、と言うものだから仕方なく一緒に入った
髪も体も、兄が洗いたいと言ったが、それは本当に勘弁して欲しかったからなんとか説得してやめてもらった
兄は不服そうにしていたが、正直なところ、美風の方はいい歳して一緒に入る事自体、おかしい事だと思っていた
兄さんじゃなきゃ、許してないと思う
2人が入るには少々小さなバスタブで、兄は美風を後ろから抱き締める形でぴったりと体を密着させてくる
恥ずかしくて体をずらしたかったが、兄はそれさえも許してはくれなかった
「美風、痩せたでしょ?もっと食べないと、ガリガリだよ?」
「もー、そんな触んないでよ。くすぐったいな」
すっかり元に戻った兄と、対して美風は顔から火が噴きそうなほど真っ赤に熱くなっていた
兄のモノがしっかり当たってしまっているのに気づいているのは僕だけなのだろうか
「恥ずかしいの?可愛いね」
「もっ、でる!」
「まだだーめ」
立ち上がろうとしたが、腕を掴まれて引っ張られ、それを阻止されてしまった
よろけて水飛沫が飛ぶ
美風は兄の方へ倒れ、不覚にも兄と向き合う形になってしまった
顔が、近い
「耳まで赤い」
「…っいじわる…」
兄が意地悪く髪を撫でる
とうの美風はすでに限界に近づいていた
小さいバスタブに2人
人の体温
恥ずかしさの熱
ふらりと目の前が一周したかと思えば、体の力が抜けて、いつの間にか兄に保たれていた
「もしかして、のぼせちゃったの?」
「もう…でようよ」
「わかったよ、ごめんね。気づかなかった」
少し申し訳なさそうに謝る兄だったが、ふらふら歩く美風を抱き上げては、何故
か満足気な表情をしていた
完全に面白がられている
風呂場からお姫様抱っこで出て、ソファに座らせられる
「お茶飲む?」
「…うん」
なんだか頭がずっしりと重たい
兄がキッチンから冷えた麦茶を注いでる音を目を瞑りながら聞いていた
「ほら、お茶だよ?」
「…うーん」
「寝ちゃうの?いいよ、後全部やるから」
「…うん」
「美風、今日はごめんね。明日ちゃんと、悠雅と話すから」
「…うん」
「だから、嫌いにならないで」
「うん」
「ずっと一緒にいて」
「もう…わかったよ」
正直眠すぎて兄の言葉は右から左へ抜けていたし、適当に相槌を打っていた
だからそのとき兄がどのような表情だったのかも、見てなかった
いつかは兄と離れるときが来るのはお互いわかっているのだ
それでも兄にしがみつく僕も、弟を大事に抱える恭冴のことも
言い方を変えればこれを共依存と言うのだろうか
いや、きっと違うだろう
僕には兄が必要だろうが、きっと兄にとって美風は邪魔なものでしかないのだから
いずれ離れるときがくる
それまでは。
一緒にいたかった
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