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第13話

「昨日は、ごめん」 「いいよ、もう。俺も悪かったし…」 なんて仲睦まじい光景なのだろう 兄が悠雅君に謝り、仲直り 一件落着だ だが、美風の事は許しているわけではないならしい 悠雅は美風を睨みつけてはムッとした顔を見せる辺り、なかなか子供っぽくて可愛いものだが力も性格も、もちろん子供よりも長けている 後で分厚い拳が飛んでくるだろう それは勘弁してほしい 朝、人助けの犠牲に父に散々殴られて、まだその箇所が痛むのだ 毛を逆撫でされたような悪寒が走り、2人から逃げるように美風は距離をあけた 「あー、僕用事あるんだった」 「え、美風どこ行くの?俺も行くよ」 「大丈夫。兄さん達は先に行ってて」 足早でその場を去り、来た道をUターンで走り行く もちろん用事などさらさらないし、今は悠雅から離れることが得策だろう 正直、あの2人の間にいるのは相当疲れてしまうのだ それは2人が悪いのではなく、ただ僕達は相性に微妙にズレがある それは段々と大きくなりつつある つまり根本的に仲良くなるのは不可能なのだ 3人が大人になるまで美風が我慢するしかない でもそれまで美風も我慢できる自信がある訳でもないし、定期的に距離を置くことは、誰が相手であれ同じ事なのだ だからこれは逃げではなく、策略なのだ 決して悠雅から逃げているわけではない とかなんとか考えて自分の頭で言い訳をごちゃごちゃ並べながら、もう使われてない空き教室まで走って、ドアを閉める とりあえず時間潰しにスマホを見るが、兄からの着信履歴がすでに想像以上に溜まっていたため、すかさず画面を伏せた 今さっき別れたばかりなのに なんだか昨日から兄は美風に必要以上に構うようになった 今日の朝も、美風がいないと大慌てして、わざわざ外を探し回っていたらしい 家に着く前に兄に見つかり、半ば強制的に連れ戻された さらには家から出る時は必ず、兄と一緒じゃなければいけないという意味不明な約束までされた 冗談じゃない それではまるで散歩に連れて行ってもらっているペットみたいではないか 兄の優しさは長所ではあるが、時にそれはお節介と言う短所にもなりうる 兄には悪いが、美風達はもう中学生なのだ なんでもかんでも一緒っていうのはどうなのだろう ま、兄なしでは生きられない僕が言うことではないか 「今日の課題が…」 「そこのクレープ屋さんに…」 「昨日のゲーム…」 ときどき教室の外の廊下を歩く生徒達の会話が途切れ途切れ聞こえてくる どれもとても楽しそうな話だった 美風にも友達がいればあんな会話ができるのだろうか 「隣のクラスのさ、在間君ってかっこいいよね」 「だよね。知ってる?在間君の弟の方、双子なのに全然かっこよくないの!」 「え、まじ?」 「まじまじ。前髪も伸びすぎて顔も見えないし、根暗みたい」 おっと、兄さんと僕の話だ 兄さんはかっこいいから、きっと女子にはモテるのは当然だろうな 羨ましいとか、劣等感とか感じたことはあったが、今は吹っ切れて兄は美風とは別の生き物だと思ってる そう思ったほうが楽だ 特に美風はこんな風に兄と比べられる事が大層嫌いだが、それは兄のせいではないことはわかっているし、美風も自分に非があるのも理解した上である 根暗は、怒ると怖いんだぞ ブーッ と、いきなり音を出しポケットのスマホが鳴った 兄の通知は無音に設定してあるし、誰だろうと思い中を覗けば、珍しく悠雅からの通知だった 『今、どこだ』 さっき悠雅から距離を置こうと思った矢先に、こういう事が起こるとは 悩みに悩んだ挙句、結局悠雅のメッセージを無視する事は出来なかった 『2階化学準備室。 殴りに来るんだったら後にしてね』 そういえば悠雅君に僕の連絡先って教えた事あったっけ とりあえず今は悠雅が来る前にここを離れた方が良さそうだ もし取り巻き達も来てしまったら、美風に勝ち目などはないから と、立ち上がって伸びをしていると –ガラッ 「うわっ埃くせぇ」 「え、来るの早くない?」 咄嗟に悠雅の入ってきたドアの反対方向にあるドアに突っ走ったが、もちろんの事、教室を出る前に悠雅に阻止され、なんとも呆気なく捕まってしまった 「おいっ、なんで逃げんだよ」 「え、それ本当に僕に聞いてる?逆になんで逃げないと思ったの」 「…っ俺は、ただ」 悠雅の後ろを見てみるが、取り巻き達はいない どうやら1人で来たようだ 少し安心したが、でも結局悠雅に捕まったのなら意味などないが 「あーもういい。殴るんだったらお腹はやめて、まだ痛いんだ」 「だから違うって、俺はお前にお礼を…」 「しっ!待って。また誰かが兄さんの事話してるみたい」 外からまた、兄の噂話が聞こえてきて咄嗟に悠雅の唇を指で押さえて黙らせてしまった だが、すぐに指を離して廊下側の壁に耳をくっつけて外の会話を盗み聞きする 「俺、在間なら余裕でできるわ」 「ガチ?まぁでもあの顔だったら男も惚れるよな」 「だろ?までも弟は論外だけど…」 「違いねえ」 けらけら笑いながらちょっと卑しい会話をしていた男子はすぐにいなくなってしまった 「ふはぁ、兄さんって男にもモテるんだなぁ」 「何してんの?お前」 「ああ!ごめんいるの忘れてた。で、何の話だっけ」 話に夢中になり過ぎて悠雅の事を忘れてしまっていた 当の本人は忘れられていたことに腹を立てたのか、もういいと言って顔を伏せてしまった 心なしか顔も赤く見えた それが拗ねる子供みたいに見えて思わず笑いそうになるのを必死に堪えていた

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