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第14話 亀裂
「そう言えば僕、悠雅君に連絡先教えたっけ」
「…あー、恭冴に教えてもらったんだけど、すごい渋られた」
「だよね。兄さんお節介だから〜」
「あれは…お節介ってレベルじゃないぞ」
「だよねー」
適当に相槌を打ちながらスマホの画面を開き、悠雅の通知をブロックする
兄だけでもこんなに面倒なのに、さらに悠雅の通知まで来てしまったら大変面倒だ
いずれ悠雅もブロックされたことに気づくだろうが、案外鈍感だから言わなければしばらくは誤魔化せるだろう
「えっと、じゃあ…僕はここらへんで」
「だから、待てって」
まだ何かあるのか
話が終わるや否や、すぐさま教室を出ようとするが、先程のように腕を掴まれ阻止される
「もうすぐ恭冴の誕生日だろ?何をあげればいいのか…」
「あ、あーもうそんな時期か。言っとくけど僕を当てにしない方がいいよ」
「なんだよ、お前兄弟だろ?もう少し真面目に考えてやれよ」
そんなこと言われても、と言いたい
いつも兄は美風に誕生日プレゼントをくれるが、美風からプレゼントをあげた事はない
つまり完全に貰い手なのだ
プレゼントをあげるわけではないし、別に欲しくもない
側から見れば薄情に思えるが、正直美風には歳をとるだけの1日にそこまで特別な感情を抱いたこともない
それなのに他人のプレゼント選びに付き合えだなんて無理な話だ
ここはキッパリ無理だと伝えた方がいいだろう
「…やだ」
「なんで」
「めんどくさい」
「は?」
少し冷たく突っぱね過ぎたのが気に入らなかったのか、途端に悠雅は怒ったような顔をして、急に胸ぐらを掴んできた
そして噛み付くように美風に言うのだ
「お前本当クズだよな」
悠雅に殴られたせいで頬が腫れ、鼻血が止まらない
今朝からずっとこの調子で、もう30分も鼻から血を垂れ流し続けている
洗面台は殺人でも起きたかのように真っ赤に染まって、片付けるのが大変そうだった
みんなの使うトイレをこんなに汚してしまって申し訳ない
だが、何故だか一向に止まる気配がないのだ
気づけば頭もふらふらと横に揺れ始め、そろそろ限界かと思った時には目の前が真っ暗になり、全身の力が抜け
自分が倒れた事にも気がつけなかった
ふわふわとした空間に自分だけがたった1人で突っ立ってる夢を見た
そこは辺り一面真っ白で、遠くから懐かしい歌が聞こえてくる
あれは、
昔、祖父が僕に歌ってくれた歌だ
遠く遠くから聞こえる歌が、とても心地が良かった
美風は小さい頃から両親には適当な愛情を貰えなかった
だが、美風の祖父だけはとても大事に美風を愛してくれた。
立った1人の家族だった
数年前に他界してしまい、その声はもう聞こえなくなったが、ときどきこうやって夢に出てきて歌を聞かせてくれると、自分をまだ愛してくれていると思えてなんだか嬉しかった
このまま目が覚めなければいいのに
あの頃に戻りたい
あの頃に……
「…かさ…み…さ」
………
「みかさ!」
はっとして目が覚める
そこは真っ白な空間ではなく、薄汚れた天井が広がっている
辺りを見てみて気づく
ここは、保健室だろうか
「美風!やっと起きたんだ、よかった。心配したよ」
「兄さ…んっ」
目の前には兄がいて、寝起きの美風にいきなり抱きついてきた
少し掠れてる喉から締め付けられた勢いでおかしな音が出る
正直、まだ頭痛いからやめて欲しい
抱きつかれながら後ろを見ると、保健室の担任と、悠雅が何か話をしていた
兄のせいでよく聞こえなかったが、悠雅が担任に叱られているように見えた
どうして叱られているのだろうか
まだ働かない頭では深く考えられず、すぐに考えるのを諦めた
と、しばらくすると担任は悠雅の元を離れこちらに向かって来る
すると兄は抱きつくのをやめて、担任に顔を向けた
「寝不足と疲労が原因よ。立てないようだったら親を呼ぶけど、どうする?」
「あ、親は…ちょっと…」
「先生、俺がちゃんと連れて帰ります」
「そう。なら早く帰って美風君は休みなさい」
そう言って帰り支度を済ませて兄はさっさと学校を出て行こうとするが、美風はやけに大人しい悠雅が気がかりで、足を止めて話しかけようとしたが、兄にとめられた
「そんなやつほっといて行こ、早く帰ろ」
「でも…ねぇ悠雅君。一緒に帰らないの?」
グイグイと兄に腕を引っ張られる
その腕には兄の爪が食い込んで痛かったが、それよりも美風は自分が寝てる間に何があったのか知りたかった
「兄さん、兄さんちょっと待ってよ」
「美風、そいつは美風の事殴ったんだよ?気にする事ないよ」
「……俺のせいだ」
「聞いたでしょ悠雅君。疲労と寝不足だって。少し殴ったからって倒れるほど僕も柔じゃないんだ」
美風は必死に悠雅を庇う
なんだか本人も思い詰めているようだ
このままでは兄と悠雅の仲が悪くなってしまう
それだけは本当に避けたかった
「今後一切俺達に近づかないで」
「つ、恭冴!悪かったって、でもそいつだって…」
「やめて、話しかけないで。行くよ美風」
「ねぇ兄さん。話だけでも聞いてあげれば?」
「話したさ、十分ね。今までのことも、これからのことも」
それからはあっという間だった
その日を境に兄と悠雅の間には大きな亀裂が入り、学校でも顔を合わせる事はなくなった
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