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第19話 20になって
あれからもう7年が経った
僕達は13歳と言う未熟な時代から20歳へと成長を遂げた
思えば長く感じた日々も、案外すぐに過ぎていってしまった
家出をしたあの日、行く当てもなくただ途方に歩き続けた美風が力尽きたところを、偶然通りかかった人に助けられてなんとか生きてきた
思えば偶然と言うにはあまりに不自然な出会い方をしたが、当時、自暴自棄だった美風にとってはどうでも良かったのだろう
助けてくれた人の名前は響(ひびき)さんと言った
本名、年齢、その他いろいろ不明なところはあるが、年上だと言う事とお金持ちだとはわかっている。謎多き人だ
響さんに助けて貰ってから仲良くなって、ちょくちょく会ってみたり、出掛けてみたり、そして
「んあっ んん!」
「はぁー…きもちいい。今日調子いいね。おまけで一万あげるよ」
「んははっやっ…たあ」
お小遣い欲しさにセックスしてみたり。
なんだかんだあって美風は自分の身なりを武器に売春してこんな風にお金をもらってはなんとなく生きる日々を続けていた
響さんには大事なお得意のお客さんとして仲良くしてもらってる
かなり不安定な生活だが、美風はそれでも楽しくやって行けた
少なくとも7年前よりも充実した生活だと思える
髪を切り、昔のようなもっさりとした頭とはおさらばし、可愛い服着て、お洒落して…
そんなこんなで華奢な身体と可愛い顔で誘えば簡単に男が釣れた
確かに楽ではないが、案外美風は気に入っている
「あ、また美風のお兄さんテレビにでてる」
「わ!ほんとだー。兄さんすごっ」
響さんが座るソファの隣に座り、一緒にテレビを見る
最近流れるようになったドラマの広告で兄は主役を務めているらしい
家出をしてから一度も関わってなかったが、まさか俳優になっているとは思わず、最近テレビでよく見るようになってからその存在に気づいた
ずっと離れていたからなんとなく気になっていたが、兄は上手くやれているようでホッとした
「お兄さん凄いね。また主役のドラマ決まったらしいよ」
「うん、僕の自慢の兄さん。元気にしてるかなぁ?」
「…帰りたい?」
「まさか。そんな事より新しい靴が欲しいんだ〜」
「あはは。いくら欲しいんだい?」
「2万え〜ん」
帰りたいとは思わない
たとえ帰れたとしても美風はここに残るだろう
初めて兄と離れられた7年間は決して短くもない
今の美風を見られたくないし、今更帰ってあの日を無かったことにするなんてきっと美風には無理だろうから
それにここは美風を好きでいてくれる人がたくさんいるのだ
自らあの地獄に戻ろうなんて考えもしないだろう
「じゃあ響さん。また今度ね」
「もう帰るの?今日も泊まってけばいいのに」
「今日はお客さん入ってるから行かなきゃ」
「そっか…残念。じゃあまたね」
「うん、ばいばい」
玄関を出て颯爽と歩き出す
昼間っから盛っているここ歌舞伎町は家出の身を隠すのに適している
最初ここに来た時は頭が痛かったが、7年間ここに入り浸ってようやっとこの街に慣れてきた
騒がしく静かになる事のない街だが、慣れてみると結構いい場所だと思える
勿論、風俗目的なところも兼ねて過ごしやすい場所だ
「さて、今日のお客さんはどんな人かな」
かっこいい人がいいな
そんな馬鹿らしい事を考えながら過ごすのも悪くないものだ
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