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第20話

「じゃあね"ミカちゃん"。気持ちよかったよ」 「ん、ありがとねぱぱ。またね」 美風をミカちゃんと呼ぶ中年の小太りした男と別れてすぐ、トイレに駆け込んだ 「うぇ、今日のお客さんハズレだった…」 その分がっぽり稼げるからプラマイゼロといったところだろうか 正直ここはああいうお客しか来ないし、こちらも選ぶ権利は無いに等しいから我儘は言えないが、やっぱり美風も美男美女に抱かれてみたいものだ 「ん〜。今日は奮発しちゃおっかな」 頑張ったご褒美に夕飯はお肉でも食べに行こうか そうなると1人で行くのも寂しい気がするから響さんでも誘おうと思ったが、響さんとは今朝別れたばっかりだし、あの人は高級レストランしか行かないイメージの方が強い やはり今日は1人で行くしかないかと悶々と悩んでいたが、腹の虫は鳴き止む気配はない やっと1人で行くことを決意した美風は歩き出そうとした時、後ろから腕を掴まれ止められた 誰かと思い振り向いて見ると、40代後半辺りの男がじっとこちらを見てこう言った 「君、いくら?」 「あー、ごめんなさい。今日はもう疲れちゃったの。また今度お相手してもらっていいですか?」 「いいから!いくらかって聞いてんだよっ!」 少し気が立っているのか美風がそう言うと、怒鳴るように金額を聞いて来るものだから、美風も仕方なく 5万円… とぼそりと呟いた わざと少々高く張ってみたが、男は諦める気はないらしく少し考える素振りをしたが、 「わかった。すぐそこのホテルでいいだろ?」 「え?はあ、まあ」 一体この男は何を焦っているのだろうか 美風の腕を掴む力は緩む事はなく、さらに強い力で引かれ、美風は仕方なくついて行った 正直乗る気はないし、この男も怪しすぎるが、ここで抵抗したところで無意味だろうと確信を抱いていた まあ、お金が貰えるなら そう思っていたが、男の目の前にいきなり若く凛々しい顔立ちの男性が現れて美風と男は驚いて立ち止まった 「君、いくら?」 その男性は腕を掴まれたままの美風を見つめながら、先程の男と同じように聞いてきた 「誰だお前、そこをどけ邪魔だ」 男は男性に怒鳴りつけるが、当の本人はまるで男が見えないかのように美風を見つめ続けるため、美風は男に言った同じ金額を男性に伝えた 「5万です。ごめんなさい、また今度ね」 「ああ、そうだ!さっさと退けよ」 美風に続き男がさらに怒鳴るが、やはり男性は聞く耳を持たず、一向に退こうとしない そしてやっぱり美風をじっと見たまま、男性は言った 「ねえ、10万でどう?」 美風はややこしい事になる前に、怒鳴る男の腕を自分で引いてさっさとその場を離れようとしたが、男性の一言にピタリと動きを止めた 10万…10万なんて そんなの、迷うはずがないだろう 「お兄さんは、どんなのが好きなの?」 気づけば美風は迷いなく男性にすり寄っていた 「おいお前!俺と寝ると言っただろっ!」 「ごめんね。残念だけど今日は運が無かったって思ってよ」 「そんなの納得いくわけ無いだろうが」 「いっっ!離してよ!」 「大人しく…ガッっ」 ゴンッ 美風はそそくさと男性とその場を離れようとしたが、男が納得する訳もなく、美風は腕を強く掴まれた その時、いきなり鈍い音が響き、それと同時に美風の腕を掴む男がいつの間にか地面に倒れていた 男の頬には殴られたような傷がある 何がなんだかわからない美風はとりあえず男から距離を取った 「あんた、しつこいんだけど」 今まで黙っていた男性が男に向かってそう言った 美風はそこでこの人が男を殴ったのだとやっと気づいた 男は男性に殴られ、完全に尻すぼみとなり、そそくさと逃げて行った 「腕、大丈夫?」 男性は呆気にとられている美風に腕は大丈夫か問いてきた 表情をみると心配しているかのように眉を下げてこちらを見つめていた 「え、あ、大丈夫です」 美風は男性から顔を背けて、そっぽを向きながらそう言った 暗くてよく見えなかったが、近くで見ると切れ長の目と綺麗に通った鼻筋に、整った顔立ち これを美男と言う以外何があるのだろうか 男性は未だに心配してるのか美風の腕を取り、優しく撫でている 触れられている腕が熱くなるのを感じて、美風はすぐさま腕を引っ込めてしまった 「えっと、じゃぁ…行きましょうか」 「…ああ」 男性は明らかにぎこちない美風の手を優しく包んで前を歩いた 美風は男性の紳士な行動に戸惑いながらも、ただ前を歩くその人について行くしかなかった

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