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第21話

美風は男性について行くと用意してあったのか、タクシーに乗せられ少し行った高層ビルが並ぶ道で降ろされ、その内のマンションらしき建物へと連れてこられた 「えっと…ここは?」 「俺の、家」 「……でっかぁ……」 てっきりラブホに行くと思ってた美風は空高く伸びるマンションを見上げる それは美風が住む古いアパートとは比べものにならないくらい綺麗で、何よりでかい 完全に怖気付いた美風は小さく縮こまりながら前を歩く男性について行く エレベータに乗って随分上まで登り、やっと着いたその階は、なんと最上階 全てが眩しく神々しい。 この人、ものすごいお金持ちだ だが、男性の身なりを見てみると清潔な服ではあるがあまり高そうな服ではない あまり欲のない人なのだろうか それでもいい意味で似合っている やはりイケメンは何を着てもかっこいい 「き、れいなマンションですね」 「ああ、ここが俺の家」 玄関に掛けた表札をチラリと見る 男性はドアを開けて上がるように誘導し、美風はいそいそと部屋に上がる 入ってすぐに大きなリビングと開放的なキッチンが見え、正面には都会を一目で見渡せる大きな窓があった 「ひぇ…」 「…大丈夫?」 「いや、だいじょばない。ひっろ!すっご〜い」 まるで子供の頃に感じたワクワク感が止まらない うずうずと部屋を駆け回りたい衝動を我慢していると、どうぞ、と男性にソファに案内される ソファは大きく美風をふかふかと包む感覚は天国そのものだ 「ふぁ、これ好き…」 「そんなにいい?」 「うん、気持ちいい」 続いて男性も美風の隣りに座り柔らかいソファは大きな男性の方に傾く 美風はそれでバランスを崩し、男性に保たれるような格好になったが、男性は怒ることもせず、優しく受け止めてくれた 早く退かないといけないのに、気持ちよさになかなか動けない このまま、寝れそう うとうとする美風の頭を男性はゆっくりと撫でて、じっと見ている しばらく沈黙にリラックスしていたが、男性の言葉にそうもいかなくなった 「ねぇ美風。俺のこと、覚えてる?」 ピクリと体を揺らし、泥濘の中に沈みそうだった意識はその言葉で一気に浮上する 美風は保たれていた体を起こして男性に向き合った 「やっぱ、そうだよね?」 「…気づいてたんだ」 「うん、表札の名前見て思い出した」 玄関前に掛かっていた表札に書かれた名前は遠い昔から知っている名前だった まさかとは思ったが、よく見れば顔立ちもだいぶ似ていた 確証したきっかけはそれだけではないが、会った時からなんとなくわかっていた 「…久しぶり、悠雅君」 「いや〜、すっかり変わったね。身長も高くなったし、髪もさっぱりしてる!」 「ああ…美風もだいぶ雰囲気変わったな」 「そりゃね、もう7年?早いもんだよね。懐かし〜」 美風は昔の事をじっくりと思い出してみるが、よくよく考えると特に楽しいことも無かったな、とすぐに考えるのをやめた 悠雅に渡された熱々のコーヒーをふぅふぅと息で冷まし、チビっと口に入れる だが美風は苦味の強いコーヒーはあまり得意ではないため、飲み干すことはなく、手に持ったままぐるぐるとコーヒーを回していた それを見た悠雅は不安気な顔で聞いてくる 「コーヒー嫌いだったか?」 「うーん…あんま好きじゃないかな、苦いの嫌い」 「ごめん、紅茶でも淹れ直してくる」 「いいよ、どうせ飲まないし」 くるくる回るコーヒーに写る自分の顔をじっと眺めながら言った 美風は悠雅が、美風が消えたあの日のことを聞いてくるのをずっと待っている だが、変に気を遣っているのか、なかなか聞きにこないため、だんだんとイライラしてきて、思いきって美風から話を切り出した 「ねぇ、なんでここにいるの?なんで僕を買ったの」 「…いや、その、なんて言っていいのか…」 あたふたする悠雅の横顔をじっと見つめる しばらくの間、静かな沈黙が流れたが、少しすると悠雅はやっと口を開いた

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