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第26話

響さんは車に乗り込んですぐに車を発進させた 響さんの車はいつもふわっとした香水のいい香りが漂っている キツくもなく、すっと鼻を通るこの香りは美風のお気に入りだった だが、今日はやけに香りが強かった 「けほっ……響さんタバコ吸ったの?」 「やっぱり、バレちゃうかぁ」 そういうと響さんは車の窓を開けて匂いを飛ばす 窓から入り込む風が美風の前髪を掠めていく感覚が心地よかった 「ごめんね美風。迎えに行くってわかってればタバコは吸わなかったのに」 「僕は別にいいけど、車の中でタバコはダメだよ。匂いも染み付くし、女の子に嫌われちゃう」 「…そうだね。気をつけるよ」 響さんは前を見たまま苦笑いした 別に美風の前でタバコを吸ってはいけないなんてルールもないのになぜかいつも美風を気にしてくる そういう綺麗な関係でもないのにどうしてだろう ただのセフレ同志なんだから好きにすればいいのに 美風はつくづくそう思うのだ 「今日の客、見たことない顔だったね」 「そう、新しい人」 「…結構顔もいいし、お金持ちそうだね」 「たしかに」 「いくら、貰ったの?」 「うーん、今日はサービスしてあげたの」 「え、じゃあ美風。なんの見返りもないのにアイツとヤったのか?」 「そうだけど?」 「…そういうの、良くないと思うけど」 「も〜なに?もしかして妬いてるの?やめてよ、そういう仲じゃあるまいし。僕そういうのきら〜い」 「はぁ、あのね美風。世の中には変な人がいっぱいいるんだよ。そうほいほい許していいもんじゃないんだ。せめてお金くらいは受け取って…」 「あーはいはいわかったわかったそうします!」 美風は響の言葉を遮ってわざと耳を塞いで聞きたくないアピールをした そんな美風に響さんはムッとしたような顔をしたが美風は知らんぷりを突き通した 響さんは時々、こんなふうに僕を責め立てる 何が不満なのかしらないが、イライラしてる時は特にしつこい 昨日何かあったんだろうな。じゃなきゃこんなにうるさく突っかかる理由がわからない 金を貰おうが何だろうが美風の勝手じゃないか いつもは響さんが好きだけど、今はすぐにでも車から降りたい気持ちでいっぱいだった 「やっぱりやめよう、こんなこと」 「え?」 「だから、体を売るのやめようって。お金なら俺がたくさんあげるから」 「…やだ」 「そう言わないでよ、何もこんな形でお金集める必要ない」 「…降ろして」 「美風!俺だって美風が心配なんだよ」 「降ろしてって、言ってんの!」 「!!」 美風は今すぐにでも車を降りたいのに止まる気配のない響さんにムカついて、響さんが握っていたハンドルを掴み、グンと左に傾けた 続けて車体は大きく傾き、歩道に乗り上げようとしたが、驚いた響さんがすぐさまブレーキを踏んだおかげで縁石にぶつかる事はなかった 幸い、通行車も通行人もいなかったため事故にはいたらなかった だが車が止まるや否や美風は勢いよくドアを開け、外に飛び出す 「美風!」 「今日の響さんうざい。もう帰る、ばいばい」 呼び止める響さんを無視して足早にその場から離れる 後ろで響さんの声が聞こえたが、裏道に入ると諦めたのか、その声は聞こえなくなった 美風は気にせず歩く だが歩くたびに昨日の行為で体の節々が痛くなる もともと美風が体が痛いから、迎えに来てと響さんに頼んだくせに少し説教されただけで1人で飛び出して自分でも馬鹿らしく思う それでもやっぱり許せなかった あんな感じに親ヅラされるとなんだか腹が立って仕方がないのだ 親や兄からの監視からせっかく逃げられたのに、自由にできないとやっぱり不安になる 響さんの言ってることはもっともだけど、やっぱりムカつく 自分はお前の言うこと聞いてるんだからお前も俺に従え、っていう風に感じて余計に、だ タバコの件もそうだ。頼んでもないのに勝手に我慢して、まるで美風のためとでも言っているかのようでどうも気分がよくなかった 「はぁ…」 しばらく歩いてやっと落ち着いたが、美風の腹はまだムカムカしたままで歩くスピードは増すばかりだった そういって入り込んだ裏道を何度も曲がってついたのは古びた二階建てのアパート 美風は二階に続く階段をカツカツと登り、カバンに入れっぱなしだった鍵を使って部屋に入った もう1週間もここに帰ってなかったからか部屋の空気が澱んでるように感じた 窓を開け換気し、外服のまま布団に寝転がる 汚いとか、シワができるとか、考えはしたが着替える気にはなれなかった 布団でうつ伏せの状態から動けずに、ただぼーっとスマホの画面を眺めていた

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