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第28話 友達
ラウンジにて美味しそうなドリンクを探すが、見慣れた名前から聞き慣れない名前まで様々だ
何が美味しいんだろう
甘いものが飲みたいけど、ガツンと頭に来るくらい酔いたいとも思う
あれこれ見ながら悩んでいると、後ろから声をかけられた
「お兄さん、何かお探しですか?」
振り向くと茶髪でふわふわな癖毛と、美風と同じくらいの少年がそこに立っていた
この子はさっきステージにいた…
そう、ダンスを踊っていた男の子だ
去り際に目が合ったような気がしたが、まさか話かけてくるとは思わなかった
「あ〜、探してるってよりか、何飲もうか迷ってるんだ」
「だったら僕がおすすめしますよ。お兄さん、どんなのが飲みたいですか?」
「んん、なんかカクテル系で、でもガツンとくる…なんかあるかな」
「それだったら、スティンガーとかどうですか?」
「スティンガーか…結構強いよね」
「バーテンダーに頼めば度数下げてくれますよ。さっぱりした味わいで美味しいらしいです」
「じゃあ、それにしようかな」
それからラウンジにてドリンクを受け取ると、今夜の夜の相手を探そうとカウンター席に座ったところで先程の男の子が美風に言った
「あの、よろしければご一緒していいで
すか?」
そう言われて驚き男の子の顔を見ると、目がきらきらと輝いていてとても断れそうになかった
「いいよ、話し相手欲しいし」
「ありがとうございます」
そう言うと美風の隣の席に座り、バーテンにオレンジジュースを頼みそれを受け取るとそれを少し掲げてから 乾杯 の形を取った
それを見た美風も自分のドリンクを掲げると
「ん、乾杯」
「はい、乾杯です」
嬉しそうに笑う男の子の顔は美風から見てもとても可愛らしい笑顔だ
お互いにドリンクを一口飲んでプハッとわざとらしく擬音を出して笑い合った
「オレンジジュース、君まだ未成年でしょ?」
「はい、本当はダメなんですけどね。お酒飲まないって条件でここで看板やってます」
「ヘぇ〜、いいね。そう言えば名前は?僕ここ初めてでわかんないんだよね。ごめんね?」
「いえ!あっ…えっと、僕はミナトって言います」
「いい名前〜。えっとねー僕は…」
「あの!"ミカちゃん"ですよね!?」
「えっ」
自己紹介をしようとしたらいきなりミナトが前のめりになって顔を近づけてくるものだから驚いて少し引き気味に後ろに傾くと、ミナトはハッとしたように後退りした
「す、すいません…」
「いや大丈夫だけど、もしかして僕って有名人なのかな?」
「それも、あるかもしれませんが」
「ん?」
もごもごと口を動かすみをじっと見つめる
頬を赤らめながらも一生懸命に話そうとしている姿はまるで小動物のようだ
「僕、ずっと、あなたの事探してて」
やっと口を開いてそういうと、カバンからゴソゴソと何かを取り出した
なんだろうかと覗いてみると小さな手帳に美風の中学の母校の名前とマークが印刷された表紙が見えた
これは
「どうして…」
ミナトから手渡された手帳の後ろの方を開いて確認したが、確かにそこには美風の幼い証明写真とかつての家の住所が書かれてあった
確かに僕の生徒手帳だ
いつの日か無くしたと思っていたが、まさかこんなところでお目にかかれるとは思ってもいなかった
だがしかし、何故今、初めて会ったミナトがこれを持っているのだろうか
不思議に思ったのを感じ取ったのだろう
ミナトは美風をじっと見つめながら話した
「今から7年くらい前、あなたの家の近くの公園で迷子の子供を助けたこと、覚えてますか?」
「7年…」
それはちょうど家出をする少し前だった気がする
なんせだいぶ時間が経っているため記憶が曖昧だが、必死に考えていると薄らとその時の事を思い出した
「…寒そうだったから、僕が上着を…もしかして?」
「そうです!僕があの時の子供です!ずっとお礼が言いたくて…あの時はどうも有難う御座いました」
「えっ、あ、こちらこそ…ずっと大事に手帳を持っててくれたなんて」
お互い畏まってペコペコと頭を下げ合う
終わらない感謝と謙遜の嵐
その様子をバーテンに呆れた目で見られている事に気づくまで多少時間がかかったが、なんだか急におかしくなって2人で笑いあう
図々しく話しかけて来たり、感謝したり、この子とっても面白いな
「そうかぁ、君があの時の。おっきくなったよね〜」
「はい、あともう少しで18なんですよ」
「え!?僕と2歳しか変わらないの!もっと年下かと思った。みなと君童顔なんだねっ」
「いやいや、ミカちゃんさんには負けますよ。手帳の写真と全然変わらないじゃないですか」
「え〜?これでも随分変わったよ。髪切ったし、メイクしてるし、あっ背も伸びた」
「あははっ厚底で盛ってるだけじゃなくて、ですか?」
「なんだと〜?こんにゃろ〜」
さっきまでペコペコ頭を下げていたのが嘘のように人懐こく喋るミナトに、美風は何故か好感を覚えた
まだお酒も一口しか飲んでないのに、シラフに近い状態なのに、
こんなに楽しいのは久しぶりだ
美風はなんだか嬉しくなって、もっとミナトに近づこうとイスを近づけながら言った
「ね、敬語やめてよ。僕のことミカって呼んでよ」
「はい、ぜひ」
「はいぶっぶー、敬語はなしだよ」
「あ、えっと、うん!そうする」
ぎこちなさそうに返事をするみなとが何故か可愛らしく思えて目が離せない
これは美風にとって初めての感情だった
「僕、すぐにミカに会いに行こうと思ったんだけどいろいろあって時間空いちゃって、それで住所どうりの家を尋ねたんだけどその時にはもうミカはいなくて…」
「あーね。僕あの後すぐ家出しちゃったんだ。両親の虐待が凄くてさ」
「あ、なんかごめん。辛い事思い出させちゃった?」
「ううんぜんっぜん。それよりお母さんはどうしてるの?あの時すごくミナトのこと心配そうにしてたけど」
「…母はあの後すぐに病気で死んじゃったんだ…遺伝の病気を持ってて」
「…なんか、ごめん」
「あははっお互い大変だね」
「そうだねぇ」
「でもほら、僕らこうして生きれてるよ。すごくない?」
「たしかに〜」
普段なら自分から過去の話はしない
自分が惨めに感じてやるせない気持ちになるからだ。
それはミナトも同じなはず、それでも尚2人は笑い合いながら過去を曝け出して、お互いに慰め合って
美風は、本当は、こんな風に傷の舐め合いができるような相手を求めていたのかもしれない
セフレとも、お客さんに感じるものとは違う
もっと純粋で、それでもこの時間を何よりも大事にしたい
わからない
初めての感情だ
これではまるで僕たちは
「…友達ができたみたいだ」
「え?」
「な、んでもない。忘れて」
何を言ってるんだ
こんな尻軽で、誰とでもヤってるような美風と心の綺麗なミナトと友達になれるわけがない
自分の言の重みに顔を伏せる
きっと困らせただろう
何も言わないミナトに不安を覚えてゆっくりとミナトの顔を見ると彼は案外寂しそうな顔をしていた
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