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第29話 友達2
「なんでよ、なろうよ、友達」
「…でも」
「僕達絶対気が合うよ!それに、僕もっとミカのこと知りたい」
「だけど、友達いた事ないから、どうしたらいいか…わからない」
「なら僕が教えてあげるっ!一緒にカラオケ行ったりお買い物したりご飯食べに行ったり…絶対楽しいよ!」
ミナトはぎゅっと美風の手を握る
真っ直ぐ見つめるミナトの瞳はまるで美風を貫くように逃がそうとしない
それでも悪い気はしなかった
むしろ心地よい
きらきらと輝くその瞳で、本当の美風を見てくれているようで…
今まで友達がいたことはない
小さい頃から兄と比べられて生きた美風と、仲良くしてくれる人なんていなかった
皆美風の兄、恭冴にしか興味がない
それが嫌で逃げてきたのに
結局は男に尻尾振って、偽りの可愛さで他人を騙して、正直になれたことなんて一度でもなかった
自分自身を見てほしい
それでも見られるのが怖くてやっぱり隠してしまうから
でもきっとミナトなら
手を握るこの温もりがあるなら
大丈夫な気がしたんだ
「…行きたい…カラオケ、一緒に。ミナトの歌、もっと聞きたい」
「うん、行こう!だから今日から僕達は友達だ。ね?」
「ははっわかった、わかったから少し落ち着いてよ」
嬉しそうに笑いながらガッツポーズをするミナトがおかしくてついつい笑ってしまう
それをミナトは顔を真っ赤にして怒るが、美風はそれすらも可愛らしく感じられた
「そうだ連絡先、交換しよ」
「そうだね、何かあったらここに、連絡して。僕はこのバーで夜しか働いてないから、昼間は暇だよ」
「わかった。じゃ僕の連絡先を…」
カバンからスマホを取り出し、連絡先を交換したとき、背後から酒に揺れた声がした
「ミカちゃ〜ん…て、もう先客がいたかぁ」
「あ、りょうすけさん。だいぶ仕上がってるみたいだけど、お相手は見つかったの〜?」
「見つかってたら今頃ホテルだよ。あーあ!ミカちゃんと遊びたかったなぁ」
美風は後ろを振り向いてりょうすけに手を振るとりょうすけは少し乱れた足取りで近づいてきた
その時にはすでにミナトと話していたときの落ち着いた声色はなく、いつもの媚を売るような、甘い声色に変わっていた
ミナトも空気を読んでいるのかりょうすけの方を見ることはせず、手に持ったグラスをちびちびと飲んでいた
だがときどきこちらの様子を伺うようにチラチラと視線を向けてはいるようだ
「一足遅かったね。ほら、さっさと行って?僕は今この子と"遊んでる"から」
そんなミナトの様子が可愛く思えて、美風はイタズラに、ミナトの体に腕を回すとぐいっと引き寄せた
ミナトは驚く素ぶりを見せたが,拒みはせず大人しく引き寄せられた
だがどうやら顔は真っ赤に熟れているようだ
「んーそっか、仕方ないね。じゃ俺帰るわ、今度会ったらよろしく」
「気が向いたらね」
美風がそう言ってやると苦笑するように肩をすくめて、りょうすけはその場から去っていく
あのさっぱりした潔さ、嫌いじゃない
短い会話であったが、美風はその間ミナトに腕を回したままだった
ついに我慢できなくなったミナトはりょうすけがいなくなったのを見計らい、美風に手をどけるよう言った
「あ、の、その、手が…」
「ん?あ、ごめんごめん。つい癖で」
美風はわざと白々しい反応をして手を退けた
ミナトの顔は真っ赤で今にも火が吹いてしまいそうだ
つい癖で、とは言ったが実際は、ミナトの反応を楽しんでいただけだった
「それにしても顔、赤いよ。そんなに嫌だった?」
「嫌、ではないけど、なんだか恥ずかしい」
「そっか、もうしない。それに僕たちはそういう仲じゃなくて友達だもんね」
「うん、わかってる。友達、」
ミナトは赤い顔を伏せたまま歯切れの悪い返事をした
手を回しただけで赤面し、それでいてこの態度
美風はすでに確信していた
この子はきっと美風のことが好きなのだ
それは少なくとも、ただの友達に向けるような感情ではないだろう
美風は揉め事になるのを避けるため、いつもならこの時点で関係を断つのだが、何故だかミナト相手に悪い気はしなかった
離れた方がいい
この子と一緒にいるとこの子自身を傷つけてしまうから
だがそう思うともやもやした
美風が初めて誰かと一緒にいたいと思えたからかもしれない
ミナトはどこか違う
この純粋で、柔らかい視線のせいだろうか
ねっとりとしてない目は年相応の、青年の目をしていた
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