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第30話

      ミナト視点 「おい、どうすんだよそいつ。もう締めるからどかしてくれ」 「す、すいませんマスター。ミカ、みかぁ、もう明けちゃったよ…」 あれから僕とミカの話は盛り上がってしまい、どうやらミカは気分が上がって飲み過ぎてしまったようだ カウンターに突っ伏すミカのそばには、度数の高いお酒が入っていたであろうグラスが何個も転がっていた 皆もう帰った後で残っているのはミナトらのたった2人だけだった やっぱり止めればよかった 時間が経つにつれてミカの頼むお酒はエスカレートしていき、少し心配ではあったが、 『だいじょーぶだいじょーぶ、ぼくぅ、よったことないしぃ』 あのときすでにミカの声は左右に揺れていて、完全に酔っていた それでもミカがそう言うんだから大丈夫。と、お酒を飲んだことのないミナトは油断してしまったのだ 「本当、すいません。ミカ、起きて?もう朝だよ」 「ん…うぅ………」 ゆさゆさとミカの体を揺するが全く起きる気配がない その間にもマスターの視線はチクチクとミナトを突き刺していく 焦ってミナトも必死に起こそうとするが、なかなか起きないミカに痺れを切らしたのはマスターの方だった 「チッ、もういい…下に連れて行け」 「…いいんですか?」 「ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと連れて行け。そこら辺に寝かせときゃそのうち起きるだろ」 「あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」 そう言うとミナトはミカの肩を担いで下の階へと続く階段に向かうが、ミカの体は酒に溶けていて、まるで液体のように力が抜けている ミカと同じくらいの身長のミナトはよろよろと必死にミカを支えが、今でも倒れてしまいそうだ それを見かねたマスターは大声を出してスタッフを呼んだ 「おい!ちょっと手伝ってやれ!」 その声を聞き、奥からノロノロとスタッフの男1人が出てきた 今帰るところだったのか、私服をきている その男はミナトがこのバーに来る前からいて、何かと突っ掛かれてあまり好いてはないが、この際は仕方なく手伝って貰うことにした 「ほんっと人使い荒いっすよねいつもいつも」 「黙って働けクソガキ」 男はマスターに嫌味ったらしく言うが、あまり気にしてないようで、男が何か言う前にまた締め作業しに裏へ戻ってしまった 相手にされてないことがわかると男はやっとミナトの方を向いた 「ったく、さっさと帰りてぇのによ…?おま、そいつ、あの噂のミカちゃんか?」 「え、あ…あの!ちょっと!!」 「おいマジかよ、こいつ絶対人前では酔わないって有名なのに…お前一体何したんだよ?」 「やめてください!今から下で休ませるんです。手伝ってくれないなら帰ってくれて結構です」 男は先程まで全く興味のない素ぶりだったのに、ミナトの肩にもたれている人物が"噂のミカちゃん"ということに気づくと態度が一変した 背を屈ませ顔を近づけると、ミカの顔をまじまじと観察し、あまつさえ乱れた胸元に指を突っ込んで覗き込もうとしたところで、ミナトが慌てて男からミカを離した 「おいおい冗談だって、んな怒るこたねぇだろ」 そうは言うが、男の目つきはより一層ねっとりしていて、ミカを睨め回すように見ている ミナトはそれを見て心底ゾッとした この男にミカを渡せばどうなるかなど、考えずともわかった 「じゃあ、わかった。俺が連れてってやるから、お前はもう帰れ」 「そういうわけにはいきません。ミカは僕の友達なので」 「だーかーら!俺がその"友達"を責任もって世話してやるからさっ」 無理矢理ミカに触れる男にミナトは抵抗するが、力の差が圧倒的だ。敵うわけがない もう腕が限界だ ミカを離しそうになる瞬間、 裏から戻ってきたマスターが男の腕を掴み、ミカから引き剥がした 「おい、これ以上やんならクビにすんぞ」 「い"っ…くそっ、離せよクソじじい」 「揉め事は嫌いだ、さっさと失せろ」 「…チッ、あーあ!もったいねぇの」 マスターの威圧に負けた男は、マスターの手を振り払い、いかにも不機嫌そうにしてまた奥へ戻っていった 脅威の存在がいなくなってミナトはホッとする するとマスターはミナトが支えているミカをひょいっと軽々担ぎ上げると、ミナトをおいて階段を降りて行ってしまった あっけらかんとしていたミナトは急いでマスターの後を追う 下につくとちょうどミカをソファに寝かせているところだった ここはスタッフの休憩所兼マスターの昼寝室だ 正直湿気でじめりとしていて、タバコの臭いが充満しており、あまり居心地がいいとは思えない 少なくともミナトは好んで地下に来ることはないが、我慢してミカの側に行く マスターは何処からかタオルケットを持って来てミカにかけた ミカはもぞもぞとみじろぎをしてまた動かなくなった 「にしてもこいつ、あの騒ぎで全く起きねぇとか相当だな」 「確かにそうですね。次からはお酒はほどほどにするよう言っときます」 「ああ、俺は上に戻るからお前も休め」 「はい、ありがとうございます」 そう言うとマスターはまた階段を登って行った

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