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第31話

      ミナト視点 「…綺麗な寝顔」 ミナトはぐっすり眠るミカの寝顔を見る 伏せられた瞼から長いまつ毛が伸びていて乱れた前髪が絡まっている そっと前髪をどかしてやるとさらさらな前髪はするりと指を抜けていった ミカはくすぐったいのかみじろぎはするものの起きる気配は全くない この寝息さえ聞こえなければ人形と間違えてしまいそうだ そう、ミナトはこの綺麗な人形を長い間探していた 当時はこんなに時間がかかるとは思っていなかった 彼のブレザーに入っていた学生証には住所も名前も電話番号も書いていたため、すぐにお礼ができるだろうと思っていたが、すでに彼はいなかった 3日ほどして母と彼の住所に向かったが、彼は家にも学校にも帰っていないと彼の両親から言われた 家出であった それからしてその家からも彼の家族らは引っ越してしまい完全に行方がわからなくなってしまった ほどなくして月日が経ち、彼の事をうっすらとしか覚えていないほどになった時、ミナトは偶然見てしまった 彼、ミカが男と並んでラブホに入って行く姿を。 あれから数年が経つというのに彼の顔は変わらず綺麗で、ミナトは一目で彼だと気づいた ショックを受けなかったわけじゃないが、それよりも彼を見つけられたことが嬉しかった それからは早かった その周辺を調べてみるとミカは度々そこに現れるらしいが、 ミカは神出鬼没でなかなか会うタイミングがなく、どうしたものかと考えていたが、クラブやバーを好んで出てくるようなので、きっとこの真新しいバーに必ず現れるとミナトは考えた そして昨日、ミカはここに現れた ミナトはすかさず、ホールど真ん中のステージで目立つように踊った ホールに入ってきたミカと目が合う 何故か体が、熱くなるのを感じた ステージから降りてすぐさまカウンターにいる彼の元に近づいた 数年ぶりに聞いた彼の声は、凛と高く、だがうるさくない、心地よい音だった …ブーッブーッブーッ… 何処からか音がして我に帰る どうやらスマートフォンの音のようだ 「僕の…じゃない。ミカの?」 ミカの持っていたカバンをゴソゴソと漁る 案の定、ミカのスマートフォンに電話がかかってきているようだ 画面には 『Mr.おせっかいさん』 と映し出されている ミカ、流石にこれはどうかと思うよ それはおいておいて、相手が誰かわからないが、ミカを心配して電話をかけているのであれば申し訳ない ミカには悪いが、本人がこれなら仕方ない、とミナトは通話ボタンを押した 「あ、もしもし…」 『…どちら様ですか』 「あ、えっと、僕はミカの…友達です。ミカは今酔っ払って寝ちゃってて…また後でかけ直した方がいいと思います」 『どこにいるんですか』 「え?あ、えっと…〇〇の近くにある新しいバーで…」 『わかりました。迎えに行くのでミカを見ておいてくれますか?」 「あ、はい、わかり、ました」 そう言うと真っ暗な画面からブツっという音がして切れてしまった 優しそうな人だったが、居場所を言って大丈夫だったろうか もしミカに危害を加える人だったらどうしよう… 先程揉めたスタッフの男を思い出すとゾッとする 有名なミカだから、ストーカーとかだったら危険だ 「…大丈夫かな…」 まだぐっすりなミカを横目にミナトの不安は増していった

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