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第32話 目覚め
美風視点に戻ります
「ん…ふ、あぁー」
「あ、ミカやっと起きた?もー大変だったんだから」
美風は大きな欠伸を出して起きる
どうやら昨日は飲み過ぎてしまったようだ
美風はこんな事一度もなかったので自分でも少し驚いた
ところで目の前にいる男の子
この子は…この子は、誰だっけ
あぁそうだ
「ほら、お水。頭痛い?」
「大丈夫。ありがとうカナト」
「ミナトだよ」
「…じょうだんだよ」
「嘘だね絶対忘れてたでしょ」
ミナトは渡そうとしていた水の入ったグラスを引っ込めた
美風はグラスに手を伸ばすが、またもやミナトはその手を避けて、今度は高いところに持ち上げた
完全な嫌がらせだ
「ねぇごめんって、ぜんぶお酒のせいだよ」
「ふーん?」
「次は間違えない。絶対」
「ふふ、絶対ね?次忘れたら僕、怒っちゃうかも」
ミナトは意地の悪い顔をしていながらも、持ち上げていたグラスを美風に渡してくれた
その時、パチりと目が合うと、おかしくて2人一緒に笑い合った
「次はないからね?」
「わかったってば」
美風はグラスの水を飲みながら辺りを見渡す
どうやらここは美風の身に覚えのない場所だが、一体どこだろうか
ミナトがいるから怪しいところではないと思うがほんのり香ってくるこの臭いを、美風は知っている
「ここ、ミナトの家かなんか?」
「まさか。ここはバーの下の休憩所。なんだか湿気でじめじめだし、タバコみたいな臭いもして、僕、ここあんまり好きじゃないんだよね」
「タバコの臭いっていうよりこれは…」
「ん?何?」
「いや、なんでもない」
美風はこの臭いの正体を知っていた
何故なら美風もこの臭いの正体を吸っていたからだ
だが、ミナトには言えない
純粋なミナトは知らなくていい事だ
この臭いは、麻薬の残り香だ
煙の臭いに混じって漂う微かに青臭いそれは美風の脳を酒なんかよりも強く掻き乱して行く
一度味わえば、忘れる事のない味だ
美風はこれ以上おかしくなる前にここから出なければと思い、ミナトと一緒に上に上がった
その先には昨日お世話になったバーテンダーが片付けをしているようだったが、美風はあの地下室の臭いが微かにその男からしたのに気がついた
こいつだ
バーテンダーの男はミナトに何かを取ってくるように言うと、ミナトは奥の部屋に行ってしまった
美風はそのタイミングを見計らって男に話しかけた
「おっさん、あんた臭ってるよ。バレたらやばいんだからもうちょっとちゃんと隠したらどうなの」
「…なんのことだか…」
「そりゃ僕も同じ穴の狢だからね。これくらいわかるよ」
「…犬みてぇなガキだな」
別に美風には関係ない
美風にこの男を咎める権利はない
だが、ミナトは別だ
「おっさんが何してようが僕は関係ないけど…ミナトには手出すなよ」
「あんなガキ相手に…」
「そうだ、ミナトはまだ子供だ。僕らと違って…未来がある」
ミナトはここらでは珍しく純粋で、綺麗で、素直な子だ
だからこそ僕らと同じ、追われる身にはなってほしくない
「ミナトになんかあったら、すぐサツにチクっちゃうからね」
「マスター!!これですかー?」
美風が男にそう言ったとき、ミナトが奥の部屋から出てきて、遠くから大きな声で手に持った何をブンブン振っていた
「おい!振り回すな!たく、うるせぇクソガキだ」
「いーじゃん可愛くて。若い証拠だよ」
「おめぇも充分ガキだろ」
男は調子が狂う、と言うように頭をガシガシと掻きむしる
ミナトはその様子を見て不思議そうに近づいてくる
「2人で何話してたんですか?」
「な〜んも。ミナト、僕もう帰るね。なんかお邪魔みたいだし」
「あ、うん、あっ!そう言えばさっきミカのスマホに電話かかって来てて、迎えに来るとかなんとか言ってたけど」
ミナトは奥の部屋から持ってきた細長い箱を男に渡しながら言った
美風は迎えを呼んだ覚えがない
一体誰なんだろう
「マジ?誰からだった?」
「なんか、おせっかいさん?みたいな名前」
「…ああ、そっかぁ…」
「やっぱり、場所言っちゃダメだった?」
「いや大丈夫、気にしなくていいよ」
美風が微妙な反応をするとミナトは不安そうに顔を歪ませた
それを見てなんだか可哀想になり、美風はすぐさまミナトの不安を否定した
「それにしても誰なの?お節介な人?」
「そーそーお節介。んでちょっと喧嘩中でね…」
「そっか、大変なんだね。本当ごめん、勝手に電話出ちゃって」
「いいよどうせ出なくたって来てたよ、あの人は」
「あ、もしかして、あの人?凄い高そうな車…」
「そ、おせっかいさん」
バーの外に行くとそこには一台の高級車が止まっていた
Mr.おせっかいさん
その名の通り出会った時から美風にまとわりつき、まるで父親か何かのようにいちいち口を出してくるあの態度
時々鬱陶しく感じるのも、仕方がない
バーを2人で出てくると車のドアが開いて1人の人物が車から出てきた
「おはよう、響さん」
「美風…昨日は…」
「そういうのいいから、乗せてくれるんでしょ?」
「…そうだね、帰ろう」
響さんはこちらに向かってくると、ミナトの方をチラリとは見るが、すぐに美風の方へ向き直った
それからボソボソと何か言いだしそうだったから、すかさず美風は誤魔化すように、響さんの横をすり抜けて車に向かった
ありむを言わす暇を与えずに車に乗る
美風は車に乗りこみ、すぐさまフロントガラスを下げるとミナトに向かって
「じゃあねミナト、また連絡する」
「うん、またね」
「またね」
そう言ってミナトに手を振ると車は発進した
横目で響さんを見ると、案の定顔は曇っていて、車を走らせ少ししてから響さんは口を開いた
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