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第33話 仲直り

       [響視点] シンと静まり返った車内 2人の間に会話はなく、美風は外の景色を見るように響から顔を背けていた 流れる景色がだんだんと見慣れた風景になった時、先に口を開けたのは響の方だった 「昨日は、ごめん」 「…うん」 「悪かったよ、俺が口出していいことじゃないのにでしゃばって…反省してる」 「…あそ」 相変わらず外を見続け、素っ気ない相槌をする美風に、響は怒ることはしなかった 再び沈黙が戻り、車内には静かなエンジン音と外の音がより一層大きく思えた しばらくして再び響が口を開く 「あのさ、」 「何」 「でしゃばらないって言ったそばからあれだけど…その、未成年はやめた方がいいんじゃないかな」 「は?」 「…ん?」 「え、なに未成年って」 「えっと、だから、君より歳下が相手だとその、危ないというか…」 いったい何を言っているんだ?と明らかに顔をしかめた美風を見て、響は怒らせてしまったと勘違いしたのか、あたふたと話を続けるが、その語彙はしりすぼみになっていた 「お店にいた子、美風より歳下でしょ?」 「まさか、ミナトのこと?ミナトと僕がヤったと思ってるの?」 「…違うの?」 「ぷっ、あははっ 全然違うよ!僕ってそんな見境なく見える!?」 美風は響が、まさかそんな誤解をしているのを知って最大に笑い転げた 先ほどまでのシンとした空気も忘れて大口開けて笑う美風を見て、響はほっとしたような表情をした 「だって、そのミナト君?って子が電話に出てあたかも事後です。みたいな雰囲気だしてたから」 「あははっはぁ、おもしろいね、僕も聞いてみたかった」 「じゃほんとにシてないんだ?」 「シないよ〜。ミナトは友達!僕が勝手に酔い潰れただけ」 「あぁよかった…ついに犯罪に手を染めたのかと」 「あははっさすがにない!」 完全にいつもの調子に戻った美風に、響は胸を撫で下ろす 昨日はどうなるかと思ったが、美風の機嫌を取り戻せてよかった 前にも似たような時期があり、その時は1週間も音信不通だったから本当に心配したのだ 今回は許してもらえたが、美風の情緒を保つのは女性を相手にするより難しく、一度でも突き放されたらそこから再び関係を築くのは困難だ だからこそ、次はないようにと、響は心に決めるのだ 「うぇっ、なんか笑ったら気持ち悪くなってきた…吐きそう」 「だめ、我慢して」 「うぅ、これが二日酔い…」 「それにしても、そんなになるまで飲むなんて珍しいね」 「うん、楽しかったからかな?こんなに飲んだの初めて」 「……そっか…」 昨日のことを思い出しているのか、にこやかに笑った美風を見て響は関心した 今まで美風は多数の人と関わってきたが、こんなに楽しそうに誰かのことを話すことは滅多になかった それに、セフレはいれど美風自が、 "友達"と言うのは初めてだ こんなに長く付き合い、関わってきた響にさえ、美風にとっては面倒見のよいただのセフレでしかないのだろう だからこそ、ミナトという子は美風にとって何か特別な存在なのかもしれない 今なお、彼との記憶を楽しそうに話す美風を愛おしいと思いつつも、ドロっとした感情が心に渦巻く だが、それを言ってしまえば美風はまた怒るのだろう セフレのくせに 関係ない 思い通りにしたいだけ かつて美風に言われた言葉が響の頭の中で蘇る 全くその通りだった 美風に一方的に想いをよせ、頼まれていない事をせっせとこなす 見返りはいらない、そばにいるだけでいい、と思いつつも、こんなに尽くしているのに美風の1番になれないことが悔しかったのだ 美風がミナトを特別に思うように、響もまた、美風を特別に思っているのだ 美風が幸せならそれでいいはずなのに、どんどんと自分から離れて行ってしまう美風を、 なんとか縛り付けておけないかと無意識に方法を探す自分自身が、嫌でたまらないのだ

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