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第36話 二日酔い

「スリッパこれ履いて」 「ん」 「散らかってるけど、どうぞ」 「お邪魔します…わっ、わっ!ひろ!すごーい!」 部屋に入るや否や少年は大はしゃぎ 今までの態度とは想像できないほど、目を輝かせる少年に、やっと年相応の反応が見れたことを嬉しく思った 部屋のあちこちを物色する少年に、 転ばないようにね と軽く注意すると、はーい、と元気よく返事した 成り行きはなんであれ、これでようやく少年を保護することができた 響はホッとしてリビングのソファにもたれかかると、しばらくして部屋を物色し終わったのか少年が響の隣へ座り、言った 「言っとくけど、僕警察には行かないよ」 「あ…」 「もしも僕のこと警察にチクったら、未成年に手出したあんたも危なくなるからね」 少年はそう言って意地の悪い顔でニヤリと笑った 少年の言う通りだ 実際に彼に手を出してないとしても、彼が被害を受けたと言えば、当然響は加害者になりうる 家に連れてくる口実がもはやそうゆうものだったから、言い逃れなどできないだろう どうしたものかと考えていたが、不意に彼に目をやると いきなり唇に柔らかいものが当たった キス、された? それは一瞬の出来事で、ただ触れ合うだけのものだったが、響は瞬時に理解した 「なっ、なっ!?」 「ねぇ、早くシよーよ。そのために僕を連れてきたんでしょ」 「そ、それは、ただの口実で…っ」 「でも僕は本気だよ」 ソファの端から端まで少年に詰められて行き場がなくなる 慌てふためく響を置いて、少年は服を脱ぎ捨てた やはりこんなこと間違ってる 彼に服を来てもらうよう説得しようと、彼の体をチラリと見た だが、服の下から出てきたものに響は衝撃を抱いた 「…それ、その痣…」 「やっぱ無理?さっきおじさんにも嫌な顔された」 彼は響の反応を見てヘラっと笑った 彼の体にはあちこちに青黒い痣があり、肋骨がくっきり見えるくらい痩せていた 笑ってはいるが、長い睫毛で伏せられた瞳は哀しそうに揺れていた とたんに響はやるせない気持ちになる きっとこれこそが、彼の家出の原因なのだろう 「ごめん…嫌じゃないよ」 慌てて響は言うと、俯いたままの彼を優しく抱きしめた なんの抵抗もしない少年は響に倒れるようにもたれかかる 「あんた、あったかいね」 彼も響に腕を回し、すり寄るように体を密着させる そのときの彼の心臓の音は、あまりにも小さく、すぐに消えてしまいそうだったことを今でもハッキリと覚えている 次の日の朝 ベットの中に彼の姿はなく、響が起きるずっと前に家を出たようだった 特に連絡先なども交換してなく、もう会えないと思ったが、意外にも彼はそれからちょくちょく響の前に姿を現すようになった 後に彼の名前は、美風と言うのだと本人の口から聞くことができた 会う度に一緒に住もうと提案したが、美風はことごとくそれを断り、しつこいようならもう一生会わない。と言われてしまい、いつも響の方が折れていた それは美風には美風なりのプライドがあったからなのだろうか それから約7年の間 美風と響の友達以上、恋人未満の関係が続き今に至る いまだに美風の過去のことは断片的にしか話してもらえず、響から聞くのも基本タブー 7年も一緒にいるのに知らないことも、知りたいこともまだまだたくさんある だが、美風はプライベートなこと全てを隠したがる そんな美風にもどかしさを感じつつも、やっとの思いで築き上げた関係が壊れることを響は恐れて、いまだに強く踏み込めないでいる だからこそ、たった数時間で美風に近づくミナトという少年に大人げなく嫉妬してしまうのも、無理はなかった ___________________________    [美風視点に戻ります] 「ほら着いたよ、おきて」 「ん、ふぁ…だっこぉ」 「何寝ぼけてるの、もう君ハタチでしょ」 「ぅうぅ、眠い」 美風は寝ぼけ眼でだっこをねだるように腕を伸ばすが、響はその腕をグイッと掴み、車の外へ引き摺り出した どうやら響に送ってもらってる間、少し眠ってしまったようだ まだ覚めぬ目を擦りながらフラフラと立ち上がる と、そのとき美風はここが自分のアパートではないことに気がついた 「ここ響さん家じゃん。僕の家じゃないのぉ〜」 「だって美風のアパート風呂ないじゃん。いちいち外でシャワーするのめんどくさいでしょ?」 「今日はヤんないよ。頭痛いしだるい」 「…わかってるよ。俺んとこでお風呂入って休みなよ。面倒見てあげるからさ」 響はそう言いながらあくびする美風を引っ張ってエレベーターに乗り込む 中に入って押すのはこの高級マンションの最上階のボタン 悠雅といい響といい、どうして美風の周りは金持ちが集まるのか… ガコンっとエレベーターは上に向かって発進する その小さな揺れだけで美風の頭はぐわんぐわんと回る 酒に強い美風は、こんなになるまで飲むのなんて初めての経験で、そこには不快感しかない 胃から何かが迫り上がって、今にも口から出そうなのに、喉の辺りでつっかえるような気持ち悪さが継続的に続く もう、こんなになるまで飲むのはやめよう 美風はひとりでにそう決意した 「ほら、お風呂入っておいで。お湯ためてあるからちゃんとあったまるんだよ」 「はぁい…」 部屋に入るやいなや響は美風を浴室まで連れて行く 美風はノロノロと服を脱ぎ捨て、風呂場に入る しばらくして、シャワーの音が聞こえたのを確認してから、響は床に散らばった美風の服を回収する 露出の多い服と、普段では着ないような透けた下着も、慣れた手つきで拾い上げていく 全ての服を回収し終わると、響は脱衣所を後にした

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