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第35話 出会い2
[響視点]
あれから1週間
すぐに忘れることもできず、モヤモヤしながら過ごす日々が続いた
何をするにも上の空で、仕事も手付かずになってしまった
赤の他人で、あの少年と何か関わりがあるわけでもないのに、彼のことが気になってしょうがない
金がないのにどうしているのか、何処から来たのか、名前はなんなのか。
考え出したらキリがなく、強い印象を受けたためか、そうパッと忘れられるものではなかった
彼が待つ異様な雰囲気が、今にも消えてしまいそうな危うさが、響の心につっかえていた
とは言うものの、あれから彼を探しても見つからず途方に暮れていたある日、
偶然にもあの少年を見つけたのだ
そこは居酒屋や商店が多く立ち並ぶ繁華街のど真ん中。しかもすでに辺りは暗くなっている時間帯
決して子供が来るような場所ではないが、あいにく少年は1人ではなかった
「じゃ、行こっか」
「うん」
声をかけようとしてやめる
少年の隣りには30代半ばの中年男性が並んでおり、男についていくように少年は人混みに消えていった
呆気に取られて立ち尽くしたのち、しばらくしてハッとすると、響は人混みを掻き分けて2人の後を追う
なんだかよくない気がする
必死に追うが雑多の中で何度も見失いそうになった
止めないと、止めないと
だが結局最後に2人を見たのは、ホテルの中に消えていく背中だけだった
響がホテルを覗いたときには、もう案内済みだったのかすでに2人の姿はない
間に合わなかった
何故あの時もっと早く声をかけなかったのか
もっと早く追いかけていれば
押し寄せる後悔で胸がいっぱいになる
だが、もうどうすることもできない
結局、響はそのホテルの前で何時間も動けずにいた
「お兄さん、一杯どう?」
「飲み放題が安いよ」
「初回無料キャンペーンやってるんですけど」
その間にもキャッチであろう人に何度か声をかけられたが、人を待っている、と言って全て断った
いつ出てくるかもわからない
それでも、響は待とうと決めたのだ
もう一度、彼と話がしたかった
それだけだった
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「何してんのあんた」
「……あ、」
1人立ち尽くし俯いていた響の前に人影が降りる
その人物が発する声は、あの時と同じ、まだ幼さの残る子供の声だった
「…君を見かけたから、待ってたんだ」
「アホらし。朝まで出て来なかったらどうするつもりだったの」
目の前の少年は響を小馬鹿にするように鼻で笑った
「もう何時間もそこにいる。そうで
しょ?」
「話が、したかったんだ。君と…」
「あそ。待ってて」
そう言って少年は小走りでどこかに行ってしまった
慌てて追いかけようとしたが、少し離れたところから待て、のジェスチャーをされ大人しく待つことにした
その間も、またいなくなってしまうとか、もう会えないかも、とか悶々と考えていたが、少年はものの数分で響の元へ帰ってきた
少年は手にビニール袋を持っており、響に近づくと袋からコーヒーを差し出してきた
「はい。この前のお礼」
「あ、りがとう」
困惑しながらもコーヒーを受け取る
手渡られたコーヒーはあの時と同じメーカーのものだった
少年は響の隣りに並ぶ
「あ、お金、返すよ」
「いいよ。今さっき稼いだから」
今さっき、というのはやはり一緒にホテルに入っていった男から貰ったものだろうか
ホテルで何をしてきたのかなんてわかりきっていることで、響はその言葉を聞いて息を飲んだ
「じゃ、僕もう行くから」
「っ、まって」
今度こそいなくなってしまう、と思うと不安になって彼の腕を、今度はそっと、触れるだけの引き止め方をした
彼は振り返り響を見つめるが、とたんに何を言うか考えてなかった響は、ゴクリと喉がなる
もうチャンスはない
本当はこんなことしちゃいけないとわかっているのに、彼を引き留められる言葉はこれしか思いつかなかった
「俺の方が、お金、持ってるよ?」
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