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第37話 私物
「お風呂ありがと、サッパリした」
「あ、出た?遅いから寝てるのかと思ってた」
「ギリね。パンツもありがとね〜サイズピッタリ」
「いいえ」
濡れた髪をタオルで拭きながら響さんに礼を言う
たびたび響さんの家に泊まることがあるが、その度に借りたブカブカな服を着て過ごすことが多かったが、
最近ついに響さんが美風の服一式を揃え始めた
毎回サイズがピッタリなのが、気味が悪いと言えば悪い
だが美風としては助かっているのでそんなこと全く気にしない
問題は服だけでなく、食器、毛布、枕、しまいには美風が使うメイク用品なども買い揃えるようになったのだ
そんな頻繁に泊まりに来るわけでもないのに、と本人に言うと、買いたいから買うんだよ、と言っていた
金持ちは懐がでかい
というよりも、なんだか一緒に住もう、と圧をかけられている気がする
今では響さんの私物より美風の私物の方がずっと多くなってしまっていた
「…またこれ買ったの?」
「ああ、それ、美風好きでしょ?」
「そうだけど…ま、いいや」
そういって目をやるのは美風が愛用する香水
ここまで来ると呆れが勝つのか、美風も何も言わなくなっていた
何も今始まったことでもないし、直接言われないだけマシだと美風は思った
出会った当初は美風も子供だったため、しつこく家に招かれては世話を焼かれていた
正直おせっかいだったし、そういう日は客が取れないので迷惑していたが、その分響さんがお小遣いをくれるので悪くはなかった
だが美風の性分、貰いっぱなしは借りを作ることになってしまうので、その代わりにセックスを提供してお互い納得していたが、あまりに頻度が多いので一度、大喧嘩したことがある
その日を境に響さんが美風に口うるさく言うことはなくなった
「ねぇ、ミナト君て何歳なの?」
「18。最近ここら辺に越してきたんだって」
「へ〜、親は?」
「いないけど、おじいちゃんが面倒見てくれてるらしいよ。でもだいぶ歳らしいから、なるべく稼げる夜バイトしてるらしいよ」
「そうなんだ。だからあそこのバーなんだね」
「すごいよね。あの歳でしっかりしてる」
「2歳しか変わらないのにね」
「ちょっと、それ、どういう意味?」
くすくすと笑う響に美風はムッとする
響さんはごめんごめんといいながら美風の頭を撫でた
「今日は予定ある?」
「残念。あります!だからまた今度ね」
美風はそう言うと身支度を始める
響さんは本当に残念そうにしながら、美風の後を追った
「まだ休んでいけばいいのに」
「今日のお客はデートだけだから大丈夫!」
「送ってこうか?」
「いい、パパ活に高級車で来るとかありえないもん」
「そっか」
美風が手を振ると響さんも寂しそうに手を振る
玄関を出て扉が閉まる瞬間、新しい車買おうかな、と響さんがボソッと呟いた気がしたが、きっと気のせいだろう
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