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第40話 休日

「えっと、ここだよね…」 美風はキョロキョロと辺りを見渡す 人通りが多いこの場所で、たった1人を見つけるのは難しいと思ったが 美風よりも先に相手が美風を見つけたようで、 後ろの方から聞き覚えのある声で名前を呼ばれた 「あ!ミカ!いたいた」 「ミナトごめん、待った?」 「全然、ほら行こ!僕お腹減った」 ミナトはそう言うとぐいっと美風を引っ張る 今日はあのクラブで仲良くなったミナトが、さっそく遊びに誘ってくれたのだ。 友達と遊ぶのは初めてだったので、何を着ようか迷っていたら、数分ほど時間に遅れてしまったのだ ミナトは気にしているようには見えないが、後で何か奢ってやろうと美風は思った 「ここのイタリアンはどう?美味しそうじゃない?」 「ミナトの好きなところでいいよ。僕なんでも好き」 「そう言われるのが1番困るんだよー」 「あはは、ごめんって、じゃあ…ハンバーグは?ミナト好きそう」 「ハンバーグ!食べたい!」 「じゃ決まりね」 ミナトは嬉しそうに美風の手を取って店へと向かう 週末の昼頃は人が多く、少し混雑していたが、幸いにも店内にはまだ空席があったようで、待たずにすぐ入ることができた 向かいあった窓際のソファ席に案内された美風達は、さっそくメニューに目を通して、お互い決まったタイミングで料理を注文した 「まだかなぁ〜」 「今頼んだばっかじゃん。ミナトってもしかしてせっかち?」 「違うよ。お腹空いたんだよ〜」 「ヨダレ垂らさないようにね」 「垂らしてないよ!」 クラブとはまた雰囲気が違ったミナト。 服装もあの時とは違い、カジュアルで清潔そうな服装をしており、少し幼く見えた こうみるとミナトが自分より年下ということを実感し、不思議な気持ちになった 「お待たせしました」 しばらく話しながら待っていると料理が運ばれてくる 美風はデミグラスソースでミナトはチーズ入りハンバーグを頼んだ お互い目の前に並んだハンバーグに、いただきます。と2人揃ってしっかり手を合わせた 「ミナトのやつ美味しそう。一口ちょうだい」 「いいよ。ミカのもちょうだい」 「はいはい、ほら、1番美味しいとこあげる」 美風は自分のハンバーグを切り分け、ちょっとした意地悪のつもりで、ソースをたっぷりつけるとミナトの前に突き出した 「はい、あーん」 「あ、え?えっと」 「早く、ソース垂れちゃう」 「あ、ご、ごめん」 美風はソースが垂れないように、とミナトを急かす ミナトはというと顔を真っ赤にしてあたふたと、美風に言われた通り恥ずかしがりながらも口を開けた 「あ、あーん…」 「ど?おいしい?」 「ん…おいしい、けど…」 もぐもぐとハンバーグを頬張るミナトの顔はいまだに真っ赤で今にも火がつきそうだ 「ふふ、顔真っ赤」 「…っいじわる…」 「ごめんごめん。つい、ね?」 怒るミナトに、美風はごめんね、と手を合わせて、うるうると上目遣いに言う これをすれば、大抵の人は何でも許してくれると美風は確信していた そんな美風の顔を見たミナトは悔しそうに言う 「もう、もう!そんな風に言われたら、怒れないよ…」 「やったー。じゃ、ミナトのハンバーグ貰っちゃお!1番美味しいとこ」 「はいはいどうぞ!好きなだけ食べて下さい!」 ミナトは不貞腐れながらも半ばヤケクソのように美風にハンバーグを、皿ごとずいっと寄せてきた そんなにはいらないよ、と笑いながらもハンバーグを頬張る美風を、ミナトはニコニコと見つめ続けていた ミナトって、よっぽど僕のことが好きなんだなぁ 美風は頭の片隅でそう思いながら、美味しいハンバーグを口に詰め込んだ 食事が終わって店を出ると、特にすることもなくぷらぷらと街中を歩いた後、たまたま見つけたカラオケに入って行った 実は美風にとってこれが初めてのカラオケだった 今まで一緒に歌う友達もいなかったし、1人で入ることもしようと思わなかった。 初めてのことに軽く緊張したが、通い慣れているミナトに手を引っ張られ、気づいた時にはすでに案内され終わっていて、手にはマイクを握っていた 「やっぱミナト歌上手いね。羨ましい」 「そう?人並みだと思うけど」 「なんだろう、声?綺麗だと思う」 「そうかな、なんか照れる」 本音だった。 ミナトは美風にそう言われて、満更でもなさそうに笑った ミナトの声は少し特徴的で、よく透き通った聞きやすい、でもうるさくない不思議な声だ 普段の会話の中でもその声は心地よく、美風はたびたび綺麗だと思っていた 「ミカの喋り方も独特だよね」 「そうなの?自分じゃわかんないや」 「うん、子供っぽいのに大人っぽい…?」 「何それ、褒めてるの?」 「褒めてるよ!なんかクセになる」 ミナトは美風にどう伝えようかと頭をひねらせるが、なかなかピッタリな言葉が浮かばないらしく、しばらく腕を組んだまま固まってしまった このままではらちがあかないので美風からミナトに声をかける 「はいはい、その話はもういいから。ほら、歌いなよ」 「あ、これデュエットだよ。ミカも歌ってよ」 「えぇ、サビしかわかんない…」 「今日はありがと、楽しかった」 「こちらこそ!また遊ぼうね」 そう言って笑顔で手を振るミナトを見送った 今日は楽しかったな そんなことを思いながら、美風は帰路を歩いた

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