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第42話 デートの誘い

「響さん今日空いてる?」 「え、うん、空いてるけど…」 目を覚ますために顔を洗い、リビングに戻ると、すでにパジャマから外着に着替え終わり、ソファでくつろいでいる美風にそう聞かれ、何事かと身構えた 「僕今日買い物行くけど、一緒に行く?」 「そ、それって…!」 「デートの誘い。好きでしょ?荷物持ち」 「…美風には敵わないな…待ってて、準備するから!」 すでに準備が終わっている美風を、なるべく待たせることのないよう、急いで準備を始める 「ゆっくりでいいよ。別に急ぎじゃないし」 「いや、美風から誘って来るなんて珍しすぎる。なるべく長くデートしたい」 「えぇぇ…」 若干引き気味の美風をよそに、着々と準備を進めていく 服を着て髪をセットして、いつもよりも早く終えることができた 「響さん財布持った?」 「うん。美風は?」 「僕、お金なーい!」 「ま、そうだろうね」 準備が整っていざ出発 美風が玄関を開けようとして、響は思い出したように美風を止めた 「あ、美風ちょっと待って」 「え、何?…何してんの?」 ドアを開けようとする美風の足元にある、新たに作った鍵穴にガチャリと鍵を刺す これは内側からは開けられない鍵だ 今まで存在してなかった異質なそれに、美風は顔を歪ませる 明らかに防犯目的ではない 外側からではなく、内側用の鍵なんて、 「なんなの?それ」 「だって美風、朝勝手にいなくなるし、声かけてって言ってもかけてくれないし…」 「響さん、あんた相当やばいよ?」 「別に監禁とかそういうんじゃないからね?ただ声はかけて欲しいから」 なんともぶっ飛び思考に、美風は眩暈がした ついに出るとこ出たな?響さん。 元からそういう素質あったけど、最近は前にもましてエスカレートしている気がする 昨日の夜も僕のカバン勝手に漁るし、スマホにはGPS機能を勝手につけるし… 僕が気づいていることを知ってるか知らないかはわからないが、隠す気がないのがまた恐ろしい その異常さを知った上で未だに響さんと関わってる僕も相当やばいけど… 「これからは出る前に起こしてね?開けてあげるから」 「…もう来ない。ホテルにしよ」 「そんなこと言わないでよ。俺だって心配なんだよ」 心配される義理はない、と本当は言いたかったが、せっかくの買い物気分を台無しにしたくなかったので美風はグッと言葉を飲み込んだ いつも通りスマートなエスコートで車に乗り込む 軽快な音楽を流しながら、過ぎる景色を眺めていればあっという間に目的地についた 「あれ欲しかったやつ!」 「同じようなもの持ってるでしょ?」 「全然違う!…あ、セールしてる。見に行こ!」 「はいはい」 いつにもましてテンションの高い美風は、あれやこれやとショッピングモールを駆け回る 響に至っては、ちょこまかと動く美風についていくのが精一杯だ 子供と大差ないほど背の小さい美風は、少しでも目を離せば人混みの中へ消えてしまう そこで響は嫌がる美風に無理を言い、なんとか手を繋ぐことに成功した 右へ左へ腕を引っ張られるが、嫌な気はしない 楽しそうな美風を見ていると、自然と響の口元も緩んだ 「あ、ゲーセンある。行きたい!」 「いいよ」 いろんな店を回ってると他の店より一際目立つように光るゲームセンターを見つけた美風は、はしゃぎながら店内へと入る 休日ともなれば人も多く、子連れの家族や複数の学生でかなり賑わっている 「これ取りたい」 ズラリと並ぶクレーンゲームの中から美風が目をつけたのは、大きな可愛らしい猫のぬいぐるみ 位置もちょうど後少しで取れそうな場所にある 「あ、ちょっと待って。小銭あるかな」 「響さんキャッシュレス派だもんね」 「そうなんだよね…先にこれで遊んでて。両替してくるね」 「了解!」 「ここ離れちゃダメだよ?美風すぐ迷子になるんだから」 「…りょうかーい」 響は財布の中から100円玉を3枚美風に渡すと、両替をしにその場を離れていった 美風は受け取ったお金で早速クレーンゲームを開始する この台は取っ手がついていて、それを操作すると自由にアームが動かせて、狙いを定めた後に「決定」ボタンを押すと、アームが下がり掴みに行く仕組みらしい 最初の1回、2回はあっさりと失敗に終わった しっかり狙いを定めてボタンを押しても、アームの掴む力が弱いのか、一度持ち上げても数秒も持たずに落ちてしまうのだ もう少しで取れそうなのに…! もどかしい気持ちに駆られ、美風は手持ちの残り1枚をゲームに入れる 次はもっと右の方を掴んで…いや、左の方が凹凸があって落ちにくいかな? 美風は脳内で試行錯誤してると、不意に取手を掴む美風の手の上に、誰かの手が重なってきたのだ 一瞬驚いたが美風はその時、響さんが両替から帰ってきて、一緒にぬいぐるみを取るために操作してくれるのだろうと思った 目の前のアームに集中していたこともあり、美風は後ろの気配は響だと疑うこともなく、振り向きもしなかった 「よし、後もうちょっと…!」 重なる大きな手が美風の手ごと握り込んでアームを操作し、ここだ!というところでボタンを押す 音楽に合わせてアームが降りると、見事ぬいぐるみの凹凸に引っかかり、途中で落ちることなく穴に到達し、ストンッと音と共にぬいぐるみが穴に入っていた 「やった!すごい!取れた!」 ピロンピロンと派手な演出をするクレーンゲーム 美風はしゃがみ込み下からぬいぐるみを取り出すと、嬉しさのあまりギュッと抱きしめた 「すごーい!響さん意外とゲームうまいんだね!」 「………響さんって、誰?」 「…え?」 美風は驚きのあまり固まる 後ろから聞こえてきた声は明らかに聞き馴染んだ響の声ではなかった 当たり前のように響だと思い込んでいた人物は全くの別人だったのだ 響さんじゃないなら、一体誰? それにこの声、前にも聞いた気が… 美風は恐る恐る後ろを振り向いた 「…悠雅、くん」 見上げるとそこにはついこの間、会った人物 そしてもう会わないようにしようと密かに決めていた人物が、美風の目の前に立っていたのだ

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