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第43話 取り合い
「何してんの?」
「え、って近!そっちこそなんでここに?」
「なぁ、暇なら俺と…」
「俺の連れに何か用ですか?」
悠雅はクレーンゲームを背に、美風を追い詰めるように近づいてくる
驚きで固まっている間に、隙間なく詰められ逃げ場を無くしてしまい、どうしたものかと考えていると、響が2人の間に割って入ってきた
響は悠雅の肩をグッと押して美風から距離を取らせると、すかさず美風を背に隠す
た、助かった…
「…あなたが"響さん"?」
「そうですけど。残念ですが、この子は今日俺と予定があるので」
「あ、うん、そう!見ての通り今日は先約があるからまた今度、ね?」
「ふーん…」
響の背中越しに顔を出しながら悠雅に言う。
さすがの悠雅も、美風が1人じゃないと知れば諦めて立ち去るだろう。そう思ったのだ
だが、悠雅が次に放った言葉は、美風の予想の斜めをいくものだった
「美風、いくら払えば俺の方に来てくれる?」
「……へ?」
「話聞いてました?売ってないです。行くわけないでしょ、あなたの方になんて」
「俺は美風に聞いてるんです。ね、美風」
そ、そうだった…
そういえば初めて再会したあの日も悠雅はこんな風に美風を買った
いくらでも出すからと、相手よりも高額を出せばいいと思っている。とんだぶっ飛び思考を持っているんだった…
だかしかし、今回の美風は前回の状況とは大きく違う
前回は変なおじさんに無理矢理連れてかれそうになったところを、悠雅に横から買ってもらった。しかも、その時は悠雅だと気づいていなかったからついて行ったのだ
対して今は、隣にいるのは響だし、むしろ美風の方から誘ったデートの最中だ
いくら払われようが、自分から誘ったデートをほっぽって他の男と遊ぶほど、美風は薄情な奴じゃない
きっぱり断ろう
そう思った美風が口を開くよりも先に、悠雅はピッと指を2本立てて、手をピースの形にして見せた
「20万でどう?」
「にじゅっ、え?ガチで言ってる?」
「くだらない。行くよ美風」
「え、で、でも…20万はちょっと」
20万なんてそんな大金、揺らがないわけがない
今まで1日3万…せいぜい5万で体を売っていたが、たった一夜で20万にも跳ね上がるなんて。これはまた話は別だろう
嘘かもしれない。だが、一度悠雅の住むタワマンに入ったことがある美風にとって、この人ならやりかねない、という自信があった
揺らぐ美風に焦ったのか、響は腕を掴んで歩き出すが、もちろん悠雅もついてくる
その間、美風の頭はお金のことでいっぱいだった
「俺よりあいつを選ぶわけないでしょ?美風、俺を置いてったら酷いよ…」
「ごめんって。だけど、あんな金額言われたら、誰だって悩んじゃうよ」
「…わかった。美風が欲しがってたバッグ買ってあげる」
「ぇえ!?いやいやいや、あれ相当高いよ!?」
「いい。あんなガキに美風を取られるくらいなら、俺が欲しいもの全部買ってあげる」
「ガキって…僕と同い年だけど…」
「話は終わった?」
どれほど美風を渡したくないのか、悠雅の金額に張り合うように言った響に、呆れた表情を向けた
あの金額には少々、いや、だいぶ興味を引かれたが、だからと言って自分から誘っておいて、後から他の男に誘われたからと、響をほったらかしにするなんて事はしない
だが響にとって美風はそんな薄情な人間に見えたのだろうか
だから悠雅より高額なバッグを買えば、美風を取られないと思ったのだろうか
それはあまりにも幼稚で失礼じゃないか?
ムッとした顔を響に向けると、それを見た響は何がおかしいのかわからないと言った困惑の表情を見せた
その間にも後からついてきた悠雅が美風の顔を覗いてくる
やはり断ろう。今はそうするべきだ
悠雅には悪いが、早く諦めてくれないと、響の機嫌はどんどん悪くなる一方だ
「優雅君、やっぱりごめんけど、今日は無理」
「じゃあ、30」
「さんっ!?…いやいや、そういう問題じゃ…ないから」
「そっか…ダメなんだ。わかった」
美風がキッパリ断ると、意外にも悠雅はあっさりとそれを受け入れた
なんだ、最初からこうすればよかった
そう安堵するのは美風だけでなく、隣にいた響も、美風が取られる心配がなくなったためか、繋ぐ手の力を少し緩めた
どうだ。僕だって、お金に勝るプライドというものがあるのだ
バッグを買うとか、そんなことしなくたって、僕にも自分の意思というものをしっかり持っているのだ
ふんっと鼻を鳴らし、自信気に響を見上げると、先ほどの不機嫌さはなくなり、美風を優しい眼差しで見る。
よかった、いつもの響さんに戻った
そう思ったのも束の間、悠雅の言葉にその優しげな表情は再び不機嫌な表情へと変わった
「じゃあせめて、連絡先教えて?この前聞きそびれたから」
「まぁ、それくらい…」
「ありがとう」
美風はスマホを取り出し悠雅と連絡先を交換すると、悠雅は美風の手をぎゅっと握って、黙って待つ響に見せつけるように言った
「また今度、連絡するから。ブロックしないでね」
それだけ残すと悠雅はその場を去って行った
一覧を見ていた響は、悠雅が去った後、握られた方の美風の手をハンカチで拭くと、見るからに機嫌が悪そうに
「早く行くよ」
「あちょ、歩くの早い」
美風の手を引きながら歩き始めた
「ねぇ〜機嫌なおしてよ、いいじゃん断ったんだからさぁ〜」
「そうだよね。美風はバッグが欲しくて断ったんだもんね」
「違うって、も〜わかった!ラーメン奢ってあげる!味玉もトッピングしていいからさ」
「……ふっ、何それ」
拗ねる響を宥めるため、美風はラーメンを奢ると言うと響は鼻で笑い、下がっていた口端は先ほどよりもマシになった
「ラーメンはいいや。その代わり家に来て。今日も泊まって」
「えぇ〜あの監禁部屋に?」
「だから違うって」
「…ぃいよ…今日は特別に、2日連続泊まってあげよう」
「ありがとう、美風」
さっきの不機嫌さはどこへやら
美風が家に泊まるのが相当嬉しいようで、ちゅっと美風のおでこにキスをした
やれやれめんどくさいものだ
恋人でもないセフレにこんなに執着されると美風もさすがにどうかと思い始める
今日はこれで済んだが、またこのような場面があった場合、毎回こんな風になるのは流石にまずい
近々また距離をおいた方がいいだろうか…
浮かれる響を他所に、美風はぼんやりとそう考えていた
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