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第48話 運
ミナトの顔を見ればわかる
亮介は、苦手な人なんだと
この子結構顔に出るんだな
ミナトは嫌々ながらも、美風の友達だからと無理をして握手を受けたんだろう
そんなミナトにお構いなしに亮介は手を握りブンブンと振り回す
亮介も空気を読めないわけではないが、今は酒を飲んでかなり酔っているのだろう
ダル絡みがいつにも増してうざく感じる
美風を挟んでミナトを質問攻めする亮介を宥めながら、彼の分の酒も注文してやる
「気が利くね〜ミカちゃん。乾杯!」
「はいはい、ミナトにちょっかい出さないでね」
亮介はバーテンから酒を受け取ると、グビグビと喉に流し込みあっと言う間に飲み干してしまった
ぷはぁっとわざとらしく言った亮介に呆れた顔するミナト
この2人は相性が悪そうだ
「そういえばミカちゃんは最近お仕事してないらしいけど、もしかして辞めた?」
「辞めてはないかな、休憩中」
「ふーん?なんかあったの?」
「なんも?ミナトと遊ぶのに忙しいだけ」
そう言ってミナトに肩を寄せ仲良しアピールを亮介に見せつける
亮介は他の客のように嫉妬してくるようなことはないので、とてもやりやすい
案の定、とくに気にしてないように興味津々に聞いてくる
「へ〜。ミナト君ってあのバーで働いてるよね?未成年でしょ?」
「まあ、そうですけど」
「にしてはずいぶん仲がいいんだね。もしかして、そういう関係?」
ニヤリと意地の悪い顔をする亮介が、とにかく気に入らないのだろう
ミナトの機嫌は斜めになる一方だ
「はいはい、セクハラはやめてね〜。ほら、飲み終わったんなら早く行った行った」
「冷たいな〜、まいいや。また今度俺とも遊んでね」
しっしっ、と手を払うと不服ながらもそれに従ってくれる亮介。
やはりしつこくなくて良い
他の人も見習って欲しいくらいだ
亮介がいなくなると、ミナトは強張った肩を緩め、いつも通りの態度に戻る
「ごめんねミナト。いっつもあんなんだからさ、悪いやつじゃないんだけどね」
「あ、大丈夫だけど…なんと言うか、すごく怪しくない?」
「亮介さんが?」
「うん。なんかさっきも酔ってるフリっぽかったし」
「え?そんなはずないよ。あの人酒弱いもん」
「そうかな…ごめん、気にしすぎだったかも」
珍しくミナトがマイナス的な発言をしていたので不思議に思いながらも、それほど亮介が気に入らなかったんだと思うだけで終わった
その後も何か特別なことはなく、くだらないことを話してお開きになった
「じゃ僕これからバイトだから、行くね」
「ありがとうね、付き合ってくれて」
「うん…ねぇ、ごめん。やっぱり気になっちゃってさ。お節介かもしれないし、ミカこういうの好きじゃないってわかってるんだけど…」
「どうしたの?」
別れる前にミナトは言いずらそうにしながらも口を開いた
「あの亮介って人と、あんまり関わんない方がいいかも…」
「…そっかぁ…」
まあ、ミナトは少なくとも亮介のことをよく思っていないのでそういう感想が出てくることも仕方がないだろう
だが美風としては仲良くなったのは最近だが、かなり前からも知り合いではあったので一緒にいる期間はまあまあ長いし、なんならミナトの次くらいに信頼を置いている人物なので、たとえミナトに言われたとしても、亮介に酷いことをされない限りこのまま関係は続くだろう
とはいえ、ミナトが感じる怪しさというのはあながち間違いではない
実は亮介の父親は海外で有名なマフィアなんだそう
前に海外で親の会社を継ぐだのなんだの言っていたのはこれのことだ
これはおそらく美風しか知らない情報だが、ミナトは勘が鋭いためか、何かを感じ取ったのだろう
子供の勘は鋭いと聞くが、あれは本当なのだろうな
と、考えていればご本人の登場だ
ミナトと別れて帰路を歩いていると、女性数人に声をかけている亮介の姿を見つけた
どうやらナンパ中のようだ
「お姉さん達暇?よかったら奢るけど〜」
「あ、そう言うのいいです」
「ありゃま」
ことごとく散っていく女性達を横目に亮介に近寄ると、振られた後とは思えないほどパッと表情を明るくさせた
「あれっミカちゃん!もうミナト君とはいいの?」
「バイトだって。ナンパ?」
「そそ、振られちゃったけど」
「ホストと間違われたんじゃない?それにこの通りはキャッチも多いし」
「たしかに!」
あははっと子供のように笑う亮介
ナンパが成功しないのはいつものことだが、理由はチャラチャラしてるのと、顔は悪くないのに夜でさえサングラスをつけているせいで怪しく見えるからであろう
面白いから本人には言わないが、9割型サングラスのせいであると美風は確信している
して、彼は確かに見た目こそは怪しいが、ミナトが言うような不審要素はどこにもない
だって彼はナンパさえ失敗する、親がちょっと悪で金持ちなだけの脛齧りニートなんだから。
なにも心配いらないのだ
「この後どう?僕まだ酔い足りない」
「おっ!じゃあいっぱい飲もう!どこの飲み屋がいい?」
「宅飲みがいい。久しぶりにりょーすけさんち行こうかな」
「おっけー!行こ行こ」
美風が誘うと上機嫌に答える亮介に呆れつつも、亮介と共にタクシーを捕まえるために大通りまで歩く
「ミナトくんといつから仲良しなん?」
「半年前くらい、まあまあ長いよ」
「俺とどっちが好き?」
「え、うーん、ミナト」
「…ふーん…」
休日となれば遅い時間でも人が多いこの通りは、すれ違う人と肩同士がぶつかることなんてザラにあるのは当然だ
だが、この日の美風はあまりに運がなかった
亮介の隣で歩く美風と、すれ違い様に触れる程度に肩がぶつかり、すみません、と軽く謝罪をしようとした美風の腕を、誰かが引き止めた
「み、美風?美風だ、ああよかった、1週間も連絡取れないから、心配したよ…」
なんてことだ
目の前に立つ人物を見て、自分の運の無さをここまで呪ったことはない
「…ごめんけど、手離してくれる?響さん」
「あ、ごめん、つい」
言えば謝りはするが離してはくれない
美風が逃げてしまうのを防いでいるようだ
「どこで何してたの。俺の連絡返してくれないし、なんかあったんじゃないかと」
「別にそんなんじゃない。てか、1週間くらいでやめてよ」
「だったら連絡くらい返してよ!いつもいつも急で…」
「どうかしましたか?」
響は美風が連絡を返さなかったのが不満だったらしく、人混みの中で美風を問い詰める
そろそろ腕を引かれ連れてかれそうになっていると、不審に思った亮介が戻ってきたようで、美風を庇うように響の間に入る
亮介の問いには答えず、響は亮介を睨み黙った
しばらく2人は睨み合い、その間には火花が散っているようにみえた
この感じ、前にもやった気がするな
前回は響と悠雅、今回は響と亮介
またもや面倒な組み合わせだ
主に響さんが
とにかく、美風は未だ睨みあい続ける2人が取っ組み合いを始める前になんとか止めなければ
「あー、響さん、後でまた連絡するからさ、手離してよ」
「無理、今日という今日は逃がさないよ」
「ははっ、いきなりなんすか?嫌がってんだから突っかかってくんなよ」
「あなたには関係ないでしょう」
絶対に意見を曲げる気のない響と、ヘラヘラしながらも喧嘩腰な亮介
どうしたものか
このままでは本当に暴力沙汰になりそうだ
「とりあえずさ、場所変えない?ここ人多いし」
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