56 / 65
第56話 洗脳
「美風…美風、起きて」
「うぐっ、ふっうぅ」
どれくらい続いただろうか
意識が飛び飛びなので細かくはわからないが、もうずいぶんこうしている気がする
恭冴は気絶した美風の頬をペチペチと叩いて起こす
それでも起きなければ強めに最奥を突けば、美風は魚のように跳ねて叩き起こされる
気絶しては起こされての繰り返しをもう何度したことか
美風の体力はとっくに限界だと言うのに恭冴は構わず体を揺らす
「ひぅっ、もっ、いぎだくなっ!」
「大丈夫、出さなくてもイけるよ」
幾度も果てて、もう出す物もなくなった美風のそれはクタリと垂れて、時々ぴく、ぴくと反応するだけになっていた
首を振ってできるだけ抵抗をしてみるが、恭冴はまるで駄々をこねる子供を宥めるように頭を撫でる
言ってることとやってることのギャップが凄すぎて美風は混乱する
もはや正常な判断などできなかった
「も、やだ、もぅやだぁ…」
「ああ、ごめんね、もう少しだからね」
その言葉、数時間前にも聞いたぞ
いったい兄にとって少しとはどのくらいなのだ
ついに泣き出してしまった美風に柔らかいキスを落としながらも腰の動きは止まらない
やめて欲しいのに、兄にはそれが伝わっているのかいないのか、一向に終わる気配がない
「ひぅっ、んあ」
「うーん、もう無理かな…」
恭冴は美風の中で何度か果てることができたが、ほとんど意識のない美風を見て、物足りなそうにしながらも、やっと美風の中から自身のモノを引き抜いた
それだけの刺激でも跳ねる美風だったが、やっと腹から圧迫感がなくなり、快楽からの解放感から力を抜いた
荒い息をし今まで充分にできなかった呼吸を必死に繰り返す美風
恭冴は美風が暴れて緩くなった腕の縄を解くと、美風の横に寝転がる
「おやすみ美風、ゆっくり休んでね」
恭冴がチュッとおでこにキスをしたところで、美風の意識は再び暗闇へと落ちていった
——————————————————
監禁されてだいたい1週間くらいだろうか
この部屋には時計も窓もないから時間の間隔がわからない
美風の睡眠時間に合わせて部屋の照明が暗くなるので感覚ではあるが、もはやそれ以外時間の流れを確認する手立てはなかった
それだけではない
この部屋にはベッド以外、本当に何もないのだ
せめてもの娯楽として山積みの本が渡されたが、どれも子供用の本ばかりで本当につまらない
足枷は頑丈で、これまで何度も外そうといろいろ試していたが、やはり外れることはなかった
おまけにこの部屋はなんの音もしない
防音なのか雑音は一切聞こえず、自分の息づかいと、動くたびに忌々しい鎖の音だけが響く
それで数時間と放置されるのだ
正気でいられるほうがおかしいだろう
美風は今日もやることがなく、ぼーっと白い天井をひたすら見つめ続ける
初日こそ兄を警戒して距離をとっていたが、そのうちこの部屋に置き去りにされる方が怖くなっていった
兄がもし帰ってこなかったら、美風を見捨てたら、何もないこの空間で生き絶えるしかないだろう
本能的にそれが恐ろしいと感じた美風にとって、唯一の救いは兄の存在だけだった
「行かないで、置いてかないでよ…っ!」
「大丈夫、8時間くらいだから。帰ってきたら、一緒に絵本を読もう」
「嫌だ、やだ1人にしないで…お願いだから…」
美風の願いも虚しく恭冴は部屋を出ていく
そして何もない白い部屋に美風は1人残って留守番をしなければならないのだ
自身の呼吸の中で、ただ時間が過ぎることだけを待つ
またあの扉から、兄の姿を願うようになっていた
退屈で退屈で頭がおかしくなりそうだった
そんな美風が縋れるのは兄である恭冴のたった1人しかいない
この恭冴の行動は一種の洗脳のようなものだった
それを美風は分かった上で尚、兄に縋るしかなかった
ただ1人になりたくない一心で、兄を頼るしかなかったのだ
どうしよう、トイレに行きたい
ぼーっと天井を見ながら今までを思い返していた美風だったが、ふとそんなことを思った
今朝飲まされた牛乳が美風の腹を圧迫し、美風は尿意を誤魔化すべく足をすり寄せた
そんなにしたいならトイレに行けばいいと思うだろう
問題は美風1人ではトイレに行けないということだ
この部屋にはトイレや風呂場が用意されている
だがそこまで美風の足に繋がる鎖の長さが足りない
排泄や風呂などは全て恭冴の監視の元、ようやく許される
故に兄が帰ってくるまで、用を足すことはできないのだ
恭冴は心ばかりにペット用のトイレシートを床に敷いているが、さすがの美風もそこまで落ちぶれてはいない
せめてもの人間の秩序を守るべく、もじもじ、そわそわとしながらも恭冴の帰りを待つ
でももうそろそろ限界だ
そんなところで、白い部屋の扉がガチャリと開いた
「ただいま美風。いい子にしてた?」
「!、にいさっ、兄さんっ!」
待ち侘びた兄の声に、美風は飛び起きた
鎖が許す限り恭冴に駆け寄ると、恭冴は嬉しそうに美風を抱き止めた
「トイレっ、トイレに…」
「うん?我慢してたの?シートにしてもいいんだよ」
「無理!とにかくトイレに連れて行ってっ!」
「そう、わかったよ。鎖を外すから少し待ってね」
「お願い早く、もう限界っ」
恭冴の存在に安堵した美風は、余計に下腹の疼きが強くなり、恭冴に早く早くと急かすが、対する恭冴は優雅にベッドフレームに繋がる鎖を外していた
まずい、本当に限界だ
きゅんきゅんと下腹が疼いて、中の液体を外に出そうと動き始める
それを頑張って引き締めて耐えているが、恭冴を待っている間、耐えきれるがどうか
しゃがみ込み顔を真っ赤にしながら我慢する美風の元に、鎖を外し終わった恭冴がやってきた
「じゃあトイレ行こうか」
「あぅ、待って、今ヤバい」
美風はうずくまったまましばし固まっていた
少し恭冴を待たせた後、美風はゆっくりと立ち上がり、恭冴に支えられながらもふらふらとトイレに向かう
人間、限界が近いと動きがゆっくりになるものだ
そのためすぐそこのトイレに向かうのも時間がかかる
だが早く動いてしまうと、力が緩まり漏れてしまいそうなのでなんとか耐えながらトイレにたどり着いた
「大丈夫?ほら、もうすぐだよ」
「ありが…うわっ!?」
恭冴がトイレの扉を開け、すぐそこに便器があることに、やっと解放されるんだと思った瞬間、あろうことか美風はバランスを崩し、ガクリと膝から崩れ落ちた
「おっと」
幸いすぐに恭冴が支えてくれたおかげでどこかに体をぶつけるようなことはなかったが、その衝撃で美風の下腹からびちゃびちゃと尿が漏れてしまった
「あっ、だめだめだめ…」
美風は力を入れ流れる尿を止めようとするが、膀胱はまるで栓を外したように勢いは止まらない
やってしまった
すぐ目の前にトイレがあるというのに、美風は我慢できず漏らしてしまったのだ
「あーあ、漏らしちゃったね」
「…うっ、ひぐっ、ひぅ」
美風はうずくまり、兄の声が頭上から聞こえてくる
尿は美風のシャツや床だけでなく、恭冴の服や足元を濡らしてしまっていた
それに気付いた美風は怒られてしまうのではという恐怖と、漏らしてしまった羞恥が重なり泣き出してしまった
「…お風呂、行こっか」
恭冴はうずくまる美風を抱き上げると、自身の服が汚れることも厭わず風呂場まで連れて行く
てっきり怒られると思っていた美風は涙目ながらも拍子抜けした顔をした
怒らないんだ
いや別に僕悪くないけど、てっきり仕置きされるものだと思ってた
今までの兄の行動から考えればそれくらいしそうだが、なぜか兄は上機嫌のようだった
不思議に思いながらも美風の服は剥ぎ取られ、浴室に入れられる
後から裸の恭冴が入ってくる
ここに来てから風呂は必ず2人で入るように習慣付けられた
美風の頭や体を丁寧に洗っていく恭冴はとても楽しそうで、先ほどのことなどまるで嘘のように思えた
尿で汚れた美風の下半身を恭冴は構わず洗うが、あまり触れられない場所を洗われて美風はいたたまれない気持ちになる
対する兄はそんなそぶりを一切見せないから恥ずかしがる自分が馬鹿らしく思えてくる
おそらく恭冴にとって美風はペット感覚で、さっきも今も犬を世話してるくらいにしか思っていないだろう
やけにご機嫌な兄に洗われ浴槽に浸からせられる
そして後から入ってくる兄にもたれるような姿勢にさせられた
浴槽は一般的なサイズよりひと回り大きく、2人入っても充分肩まで浸かれる広さだが、兄は美風にピッタリと肌を合わせたがる
まるで幼い頃よく一緒に入ったあの狭い浴槽の時のように
恭冴は美風の肩に腕を回し、後ろから抱きついてくる
毎日この調子だからさすがの美風も慣れてしまったが、時々くすぐるように体を撫でるのは勘弁して欲しい
「…怒ってないの?」
「何が?」
「その、僕、漏らしたから…」
「そんなことで怒らないよ。馬鹿だな、美風は」
フッと優しく微笑む兄の姿は、こんな状況じゃなければとても頼れる兄で終わっていただろうに
恭冴は美風の首、肩、背中にチュッ、チュッとキスを落としていく
こそばいが、動くと強く抱きしめられるので身動きが全く取れない
でも別に変なことされるわけでもないのでいつも通りじっとしていると、兄は何か嫌なことでも思い出したのか今日はいつもより深いため息をついた
「美風はあったかいね…」
「ぇえ?」
何を言っているのだろう
風呂に入っているのだからあったかいのは当たり前だ
むしろ僕じゃなく湯が温かいのだろう
兄は深いため息をもう一度吐くと再び美風を強く抱きしめた
美風にはいつもの余裕のある兄とは違い、どこか疲れているように見えた
「…何か、あったの?」
「少しね。今さっき悠雅と話してきたよ」
悠雅くん!
そう言えば彼はどうしたのだろう
スタンガンで撃沈し、そのまま道端に放置されていたが、その後無事なのだろうか
「悠雅くん…大丈夫なの?」
「あいつは案外丈夫だからね。今は俺を追いかけ回してるよ」
なんだか想像できる悠雅の姿にフッと笑うと、恭冴は背中から不機嫌そうに声を出す
「あいつが気になるの?」
「そうじゃないけど…それで、彼と何を話したの?疲れてるように見えるけど…」
「そうだね。疲れたよ」
悠雅との会話の内容を聞こうとしたが、恭冴はそれをやんわりスルーして、それ以降は黙ってしまった
もう一度聞いたって兄は話してくれないだろう
美風は諦めて、湯船に深めに浸かる
一日中部屋にいるだけなのにとても疲れた気がする
やはり精神的なものが関係しているのだろうか
とにかく近いうちにどうにかしなければ
いけないが、とは言えここから逃げ出す手立てがない
ここ最近はそのことしか考えていなかったが、足に付く枷は頑丈でびくともしない
唯一枷が外れる時間は今のように風呂かトイレの時だけだが、それでさえ兄が必ず側にいる
脱出は不可能に近いだろう
やはり兄を説得するしかないのだろうか
でもそんなこと無意味なことなんてとっくの昔に経験済みだ
だいぶ慣れたとは言えまだ兄が怖いと感じる時がある
そんな美風がうまく兄を丸めこめるなんてできるのだろうか
いったい、どうすればいいんだろう
ぐるぐると考えながら湯船から立ち昇る湯気をぼーっと見続けていた
ともだちにシェアしよう!

