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その後の話

※暴力、グロテスク表現があります。苦手な方はご遠慮お願いします※ 「あークソっ、しくじったな」 自室に戻った亮介は、荒々しく扉を閉めながら悪態を吐く 「あのガキさえいなければ、なぁ」 美風は亮介の言葉に頷くことはなかった それは、美風の頭にあるミナトという少年の存在が強く関係している 美風はミナトに恋してる だからやむを得ず彼を処分したと言うのに、美風の心は変わらずミナトに向いていた 亮介は深いため息と共に自室のソファに腰を下ろした ふぅ、と深呼吸と共に力を抜く 過去のことを考えたって時間の無駄だと、亮介は自分に言い聞かす 生まれた時から金は有り余ってたし、欲しいものは全て手に入った そんな亮介にとって、美風は唯一思い通りにできない人物だった 金にも顔にも惹かず、こっそり薬を打ち込んでも自力で依存から抜け出す始末 意志が強いとかそういう次元じゃない 美風を見ているともどかしくなる すぐ近くにいるのに、遠い存在だ でもそれこそが亮介を惹きつける理由なのだろう 「パスタ、美味かったなぁ」 ボソッと呟いた亮介の顔は自然と綻んでいた その時 ———ブーッ、ブーッ———— ポッケの中に入っていたスマホが振動する 本日2回目だ 亮介は体をソファに預けたまま気怠げに電話に出た 「…なに」 『ボスっ!すみませ、至急応援を…っ!』 「えーダル、そっちでどうにかしてよ」 『お願いします、ボスっ、ぐああっ!?』 電話の奥でバンッと大きな音と共に、男が野太い声で叫ぶ それを聞いた亮介はため息を吐きながら、ゆっくり立ち上がり上着を羽織る 「もー、失恋直後だっつうのに…」 フラフラと亮介が向かうのは、先程までいた美風の部屋 「みーかさ」 「ぅわっ!?な、何…」 「仕事入っちゃったから行ってくるね」 「…あ、あ仕事、うん、行ってらっしゃい」 「俺がいない間は絶対家の外に出ないでね」 「絶対?」 「絶対ね。早く寝なよ!おやすみ」 美風は数分もしない再訪に大袈裟に驚くが、挙動不審な美風にツッコむことなく亮介はそれだけ言って家を出た 「あー、だるぅ」 そう言いながら亮介は愛車で例の場所に向かう ついたのは人気のない、廃工場倉庫などが置いてある、よくあるチンピラの溜まり場だ こんなところに愛車を止めるのも嫌だし、降りるのも嫌だ 全ての面倒を体に押し込み、亮介は車の外に出た 「待ってたぜ、坊ちゃん」 「お出迎えどーも。で?あんたはぁ、何が欲しいの?」 一層でかい廃倉庫の中に入ると、何10人の男どもが、一斉に銃を向けており、足元には死体が転がっている 男どもの中心にあたかもリーダーです。みたいな顔して亮介を坊ちゃんと呼んだ男の横に、銃を突きつけられて固まっている部下がいた 「俺らが望むのは、お前がトップから降りることだ。そうすれば、こいつを殺さないで済む」 「た、助けてください…ボス…」 男はカチャリと手に持った銃を、部下の顎下に入れる 部下は怯えた顔で、亮介を見ていた だが亮介はその部下は視界に入れようとはせず、懐から銃を取り出し素早く男に向け、そして ——————パァン—————— 亮介はなんの躊躇いもなく銃を撃った 大きな音が古い廃倉庫に反響して鼓膜を揺らす 人質がいる中、まさか撃たれるとは思わなかったのだろう 中心にいたリーダーの男はまともに反応することもできず、パタリと静かに倒れた 「当たりぃ。さて、あんたらのボス死んだけど、どうすんのぉ?」 亮介はヘラヘラと笑ってチンピラ共を一瞥した 呆気に取られていたチンピラは、亮介の言葉にタガが外れたように騒ぎ始めた 「お前!仲間が死んでもいいのか!?」 「そいつは俺んじゃない、親父のだ。そんな奴、顔も名前も覚えてねぇよ」 「イカれてる…っ!殺せっ、ぅぐあっっ!?」 その言葉を機に、チンピラは一斉に亮介に銃を向けるが、それよりも早く上空から銃弾の雨が降り注ぐ 亮介の周りを円を描くように降り注ぐそれらは、けたたましい音と共にチンピラをバタバタと倒していった その中には、人質に取られていた部下の姿もあったが、亮介はそんなこと気にしなかった 「遅れました」 「おっそぉ、ムカつくんだけど」 「すみません」 「で、これはどういう感じなの」 「内乱です。ボスの入れ替わりを不満に持ったソルジャー達が衝動的に起こしたものと」 「えぇ?じゃあ、あれ全員部下?あれも、あれも?」 「はい。間違いないです」 「ふぅん」 後ろから駆け足で駆け寄ってきた若い部下に亮介は短い悪態をついた後、この騒動について話し合った それ以上2人の会話はなく、静寂が流れる しばらくすると他の部下が2人の目の前に、暴動の生き残りを引きずってきた 「彼は幹部のイワンです。…言え、何故こんなことをした」 「ぐっ、くそっ…何故だと?お前もわかりきっているだろ。俺らはこんな裏切り者の下に従く気はねぇ!!」 部下に首根を掴まれ拘束される暴動犯は、突っ立ったままの亮介を睨みつけるように見やると、声を張り上げてそう言った 力んで開いた腹からピュッと血が噴き出るのもお構いなしに 「俺らを捨てて何年も行方を眩ませたくせに、今更戻ってきたお前がボスだと?ふざけるなっ!!ゴフッ、ゴホ」 「うわきたな」 イワンは声を張り上げすぎて、咳き込むと同時に吐血する ビチャビチャと床を跳ねる赤い液体に、亮介は明らかな嫌悪感を示した 「もういいや殺して、くだらない」 「く、くだらないだと!?お前は…お前はあの人を…」 パァンと音が響き、彼の声は途切れる しっかり頭を貫通した弾が、遠くでカキンッとぶつかった 「ゲロ臭っ、かぁえろっと」 「お送りします」 血の海から踵を返す亮介の後を、若い部下も後をついてくる 亮介の愛車まで行くと、後部座席に亮介をエスコートし、部下は運転席に座り、車を発進させた 「改めまして、ご無沙汰しております。レオニード様」 「あ、俺改名した。今は亮介だから」 「リョースケ…日本名ですか」 最初はそんなたわいない話をされるが、しばらく走れば部下の口調は硬くなり、内容も本題に入る 「今回のような暴動は必ず再発するでしょう。今後のためにも一度、示しを付けるべきかと…」 「めんどい、お前がやって」 「お言葉ですが、ボスである貴方がやらなければ意味が…」 「あのさぁ、舐めてんの?それともわざとぉ?」 亮介は後部座席から身を乗り出し、運転する部下の頭にカチャリと銃を押し付けた 「親父はお前らをずいぶん甘やかしたみたいだなぁ。俺がこっちにいた頃とは だいぶ違う。どいつもこいつも勘違いしやがって」 「………」 亮介はグリグリと銃を頭にねじ込ませる 部下は何も言わないが、ハンドルを握る手は小刻みに震えていた 「あいつ俺のこと、裏切り者っつてたよなぁ。な、お前はどーだ?」 「…私は、そのようなことは思っておりません」 「じゃ俺の代わりにご挨拶、やってくれるよね?」 「…承知いたしました」 部下は渋々といった感じで頷く そこでタイミングよく車は自宅に着く 亮介はカチャンと銃をゆっくり降ろした 「ここで撃ったら、俺の可愛いキティキャットが起きちまう。命拾いしたな」 亮介は銃をしまい車から出ると一目散に家の中に入っていた 切り詰めた空気が一気に緩み、部下はまるで吹き替えした魚のように息を吸う ルームミラー越しに見た彼の瞳は、猛獣のように鋭く、決して逃すまいと冷え切った視線が上から下まで張り巡らされていた 彼が日本に行く前、こちらにいた時も彼は独特な雰囲気を持っていた それが日本から帰ってきた彼の雰囲気はより磨き上がっていた 有馬を言わせない、あの眼。 死を覚悟するほどの殺意だった 「あれもう起きてんの?まだ朝の5時だよ」 「うわ、びっくりした。今帰ったの?」 家に入り洗面所に向かうと、そこには歯磨きを終えたらしい美風が立っていた 「なんか…臭い、ゲロ吐いた?」 「ええ!?ひどい、もっとオブラートに包むとかないの?」 美風に指摘された亮介は、すんすんとシャツを嗅いでみるが自分じゃわからない 「じゃあ美風、一緒に朝風呂しようよ」 「えーやだよ。むさ苦しいし」 亮介の提案もことごく却下されたが、依然亮介は怒ることなく笑っていた 先ほど銃を突きつけていた人と同一人物とは美風は知りもしない 恐ろしく残忍な獅子が唯一言うことを聞く人物が美風だということも。 これからも彼らの日常は続くだろう 美風は今後も、裏に隠された真実を知る由もない

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