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$4.金は天下の回り物②

 屋外の清掃担当の勤務時間は朝8時から午後6時まで。普通の会社員とさほど変わらないが住み込みの初人にとっては通勤時間はゼロ。 ギリギリまでベッドで寝てるつもりだったけど朝6時半に部屋をノックする音で目を覚ました。 ドンドンッと出るまで叩き続ける音と聞き覚えある声に仕方なくドアを開けた。  『ふあぁぁ。寝っむ、、夕日?』  「慧、おはよう!朝ご飯食べに行かない?」  『んー…朝ご飯か、、まぁ行こっかな』  基本的に朝ご飯は食べない初人だが、食事付きなどなれば食べなきゃ損。ただより高いものはないなんて言うけど、ただに食らいついて生きて来た初人にとってはそんな言葉ないも同然。  昨日一度案内してもらった食堂の席に初めて座る。この時間はまだ食べにくる者はいない。大抵は10時頃からの仕事開始が多く、屋外担当くらいしか起きてない時間だからだ。 出されたのはオシャレなカフェの洋食モーニングメニューのようなセットで飲み物は自由に好きなものを頼める。  「ここ座ろっか」 適当に空いた席に向かい合って座った。持ち場によって食事の時間も違えば休みも交代。一つ屋根の下とはいえ全く話さない者や顔すら知らない人もいると言う。  『夕日はいつもこんな早起きなの?』  「まさか。いつもはまだ寝てるけど、慧と色々話したかったし昨日晩ご飯を食べ損ねてお腹すいたからさ」  『さすがにこの時間じゃ外も誰もいない』  食堂にある窓から外を覗くと手入れされた草木がゆらゆら風に靡いて鳥の声だけが聞こえる。 これだけ切り取れば海外の片田舎の壮大な土地にポツリと立ってる家にいる気分。  母親が子ども達の朝ご飯を準備していて、キッチンからいい香りが漂う。そんな幸せな家族の朝食のひとコマのようにも思える、、が現実は違う。  「まぁね。警備はいるけど、あっ!たまに郁さんが走りに行く姿を窓から見る事はあるかも。だから早く起きても外出ない方がいいよ、鉢合わせるかも!まぁまだ会ってないならわかんないと思うけど"近づくなオーラ"すごいからっ!」  『それなら昨日会ったけど』  「はっ!?会ったの?いつ?」  『昨日の深夜に裏庭で』  そう言いながらフォークでソーセージを刺して口に運ぶ。なかなかの味に満足して食べ進める初人を青ざめた顔で見ている夕日。  「深夜って……ちょっとまさかその格好じゃないよね!?」  『うん。これだったけど』  「その格好で外出たらダメだっていったじゃん!!あぁぁもう!郁さんに怒られなかった!?」  『あぁ何か言ってたかな。ムカついてあんま覚えてないけど』  「僕があとからちゃんと指導してないって怒られんだから勘弁してよ〜」  そう言って頭を抱えテーブルに伏せた。初人は項垂れる夕日を見てポンっとお皿に置いた。  『悪かったよ。このハムあげるから許して』  「それ、、ハムじゃなくてスパムね。他は!?何か喋った?」  それ以外は犬以下だとかそんな思い出すとイライラするだけの会話だったから記憶から消し去ろうとしてた。  『ん〜、あとは名前聞かれて覚えておくって言われたくらいかな?』  「えっ!?郁さんが慧の名前を覚えておくって!?珍しい〜絶対そんな事言わないのに!」  『何で?使用人と名前くらい普通の覚えてるっしょ』  「郁さんは使用人の名前なんて滅多に覚えたりしないよ。僕だって覚えられてなんかないし。ここでは田ノ上さんと運転手の服部さんくらいしかまとも会話をしたの見た事ないし」  『そうなんだ。まぁとりあえず噂通りの性悪なヤツだったよ』  昨夜の事を思い出すと手にしたパンが郁の顔に見えてきて力強くちぎった。口の中に投げるように入れて強く咀嚼する。夕日もそれを見て何かあったんだろうなと察してそれ以上聞かずスパムをパクッと口に入れた。  「あとはさ、、これは個人的な興味で聞くんだけど慧は何でここに来たの?何か訳あり!?」  

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