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$4.金は天下の回り物③
"訳あり"と決めつけて聞いてきた夕日に少しハッとさせられたが計画がバレてるなんて事はあり得ないしと初人は表情変えずに冷静に返す。
『何で?別に訳なんてないけど。普通にお金稼げるし家賃も要らないからいいじゃんって、ただそれだけ』
「そうなんだ〜それって逆に珍しいよ」
『、、訳ありじゃないのが珍しいってどうゆうこと?』
「全員ってわけじゃないけどここで働いてる人って意外と色んな事情抱えてきてる人、多いからねぇ」
『……事情?』
確かに求人誌に載って簡単に応募出来るバイトじゃないし全員何かしらのルートを辿ってここにいるはず。初人もたまたまタイミング良くこの仕事を聞いて運良く潜り込めたくらいだ。
「例えば警備の江口さんは元々若い頃プロボクサーで色んなタイトル取ってたくらいの強い人だったんだって。だけど傷害事件起こしてボクシングが出来なくなって、路頭に迷ってるところに旦那様に声かけられてここに来たらしいよ」
『あのおっちゃんプロボクサーだったのか、、どうりで馬鹿力な訳だ』
「気をつけて、怒らせたらヤバいからねっ」
そんな相手と早々に一悶着あったけど障害事件起こすような人には見えないしきっと何か事情があったんだろうと頷きながら話を聞く初人。
「あとは、、あっ!松永さんはシングルマザーでどうやら前の夫に職場とか知られたくなくてバレにくい仕事を探してここにきたみたい。ほらDVとかで逃げてるとかさ、そうゆうのたまに聞くじゃん。もしかしてそんな感じとか……?まぁそこまでは知らないけどさ」
『そっか。ある意味この中にいると隔離されてるし、万が一バレたとしても警備がしっかりしてるから安全って事か』
「そう!もし来たとしても江口さんのワンツーパンチでやっつけてやるっ!」
そう言ってグーにした拳を構えて初人の顔の前でシャドーボクシングのマネをする。手にしているフォークでガードしながら夕日を見て笑う初人。
「マズイっ、、みんなのことペラペラ喋りすぎちゃったよ!慧!今言ったの一応聞いてないって事にしといて」
『うん。わかった』
そんなみんなの生き様が渦巻いてるこの家はますます謎に包まれて見える。何となく深入りする前にとっとと終わらせないと。
それともう一つわかったのは、夕日が口が軽いお喋りさんな事。気を許して計画を話そうものならきっとすぐ誰かの耳に入ってバレてしまってただろう。初人も事情なんて大アリだけど絶対誰にも話さす計画を実行すると強く口を瞑 った。
『……それで夕日は?事情あんの?』
「あー僕?僕は親に捨てられて施設で育ったんだけど、その施設でこの仕事を紹介されたんだ。それでー…』
『ちょっと待った!、、何て言った?』
"親に捨てられて"を軽く流せるほど初人の心だって荒 んではいない。夕日があっけらかんと流れるような言うから話を止めた。
「ん?だから3歳の時に親に捨てられて児童施設で育ったんだよ、高校卒業までね」
『……両親は今どこに?』
「さぁ?親の顔も覚えてないし今生きてるのかどこで何してるかも知らない。けど僕にはどうでもいい事かな」
止まっていた手を動かして朝食を美味しそうに食べている夕日を見ながら、ここにいる人達は少なからず神崎家に救われているんだと思った。
だけど申し訳ないがここまで来たからには後には引けないし引くつもりもない。計画が成功すればみんなが慕う神崎家に助けられるのはある意味初人も同じだから。
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