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$4.金は天下の回り物④
『そろそろ戻って準備するよ。お先に』
「わかった!じゃ2日目頑張って〜」
お喋りに夢中でお皿にまだ半分以上残っている夕日を置いて、満たされたお腹で部屋に戻って身支度をする。朝から濃い話を聞いてある意味目が覚めたけど同情してる場合じゃない。
クローゼットから制服を取り出して着替える。昨夜の出来事を思いださせるクタクタになった蝶ネクタイを鏡を見ながら装着する。
朝8時の5分前に中庭に行くと、髪をギュッと団子ヘアでまとめた沙紀がこちらを見た。初人はペコっと挨拶しながら何となくさっきの食堂での夕日の話を思い出していた。
「新見くん、おはよう。どう?昨日の疲れは残ってない?」
『まぁ少し、、でも大丈夫です。今日もよろしくお願いします』
すると沙紀は初人の首元のボロボロの蝶ネクタイにすぐ気づいて近づいた。
「どうしたの!?それ?」
『まぁー…いろいろあって、、けど使えるんで問題ないですよ』
「まだ来て1日なのにそこまでなるなんて大したヤンチャっぷりね。まぁ私の前ではいいけど郁さんの前ではおとなしくね」
ピカピカの新人とは思えないが沙紀は面白い子が入ってきたわとクスッと笑った。まだまだ覚える仕事は山ほどあって時間内に仕事を終わらせる為に早速仕事に取り掛かる。
「えーっとそれじゃ今日はまずー…」
沙紀が説明を始めようとすると、黒い車が入ってきて玄関の前に停車した。二人は少し離れた場所から見ていたが、沙紀が初人の手を引いて車の方へ近寄る。周りにいた数人の使用人たちも集まり始め一列に並び始めた。
運転席から服部が出てきて後部座席のドアを開けて待機する。いつもの朝の光景だが初人には何だかよくわからずとにかく従って並んだ。
全員背筋を伸ばし緊張感を漂わせながら誰かが出てくるのを待つ。みんな服装を整えたりソワソワしている。
それから2分ほどして田ノ上が出てきた。ハイブランドのビジネスバックを手にして服部と挨拶をした。そして続いて出てきたのは、まさに昨夜一悶着あった郁。会社への出勤のお出迎えと気づいて初人は隠れるように顔を下に向けた。
「おはようございます」
服部が郁にそう言うと使用人達も一斉に声を揃えて挨拶した。昨夜お風呂上がりのラフな服装や髪型とは違って、ビシッと決めた凛々しいビジネスマンの風貌だ。
数段ある階段を降りて開いた後部座席のドアに手を置いて乗り込もうと身体を縮めた郁。しかし片脚を入れてピタッて止まるとなぜか出て来た。
「あーそうだ。田ノ上、一つ頼み事がある」
「はい。何でしょうか?」
「昨夜、制服の蝶ネクタイをダメにした奴がいてな、悪いが新しい物を新調しておいて欲しい」
「蝶ネクタイですか?、、かしこまりました」
そのやり取りを聞きながら一列に並ぶ使用人達はお互いの制服を見て"誰の事だ?"と言葉にはしないが視線は探り合っている。
「名前は覚えなくていいと。初めて言われたよ、まさか俺にそんな風に言うやつがいるなんてな。だから名前は知らないが、ここに該当する奴がいたら田ノ上に言うように」
そう言って郁が車に乗り込むと黒いガラスで姿は見えなくなり初人はゆっくり顔を上げた。
そして郁を乗せた車が正面の門を抜けて車が見えなくなると、全員列を崩してそれぞれの仕事場に散らばった。
何かを察した沙紀が初人を見ると目があって少しバツが悪そうな顔をする。
「今の話って新見くんの事、、?」
「あっいやっ俺は何も知りませんよ!違う人じゃないですか」
「そうなの。ならいいけど!」
ここにいる使用人はみんな規則を守って真面目すぎるゆえに少しでも周りと違うことをしようものなら悪目立ちをする。それを身をもって知った初人は一刻も早く本来の目的を遂行する必要があると計画を急ぐと決めた。
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