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$4.金は天下の回り物⑨

 『お疲れ様でした』  「新見くん、仕事覚えるの早いわね!時間内に全部終わってるし、こっちまで手伝ってくれて助かるわ。ホント新見くん来てくれて良かった」  『いえ、今日は涼しいしはかどりましたね』    そんなありがたい言葉もあと数日の初人にとても逆に申し訳ない気持ちが膨らむばかり。終わりの片付けをしていると突然、沙紀の質問ラッシュが始まる。  「そういえば新見くんって、ここに来る前は何の仕事をしてたの?」  『空港のー…あっ、えっと大学生だったのでちゃんとした仕事はしたことないです』  「そうなのね。じゃあもともと頭の回転も速くて賢いのね。どこの大学?住み込みって事は家が遠いの?親御さんは?」  『あー、えっと学校はー…』  もちろん身バレしないようにすべて嘘で塗り固められたセリフを言う。いつだっていざと言う時の準備はしている。とりあえず病気の父親の為に出稼ぎに来た可哀想な少年の設定でちょっとした同情誘う。  「へぇ。えらいわね、病気のお父さんのために。早くお父さん良くなるといいわね!」  「はい、ありがとうございます」  そう言って1日の仕事を終えた。早速ここでの仕事も板についている。数年やってきた清掃業の本領を知らぬ間に発揮していたようだ。  初人は部屋に戻ると早速明日の計画表を書き始める。夕日の話によると、大体朝早く出て次の日の夜までは帰らないと言う。  そうなると丸一日チャンスがあるのだがやっぱり人目が少ない夜中がいいだろう。その前に警備室に行って、、鍵もゲットして、、と考える事は多い。久しぶりの大きな仕事(ミッション)に穏やかな心境ではないが覚悟を決めてやるしかない。  『あの部屋の担当が掃除終えて鍵を返す時間がー…ん?美南、、?』  ベッドの上で震えるスマホに表示された名前を見て電話を取る。    「もしもし初人?昨日も今日も家に行ったけどいないから電話しちゃった。どこいるの?」  『えっとー…最近ずっと病院にいるから家には帰れてなくて』  「そっか、東京の病院だもんね。おじさんの具合どう?」  『あーうん、今はだいぶ落ち着いてるかな。入院はまだもう少しするけど、俺は明後日ぐらいには帰るよ』  「毎日病院でお世話してるんじゃ大変でしょ?お母さんに言ったらね、お見舞い行きたいって言ってたから良ければ病院教えー…」  『あーいやっ!それは大丈夫!』  美南の事だからいつか言い出すんじゃないかと思っていた初人は待っていたかのように瞬時に言い返した。  「でもおじさんが心配、、」  『遠いし、お父さんもこーゆー姿見られたくないって言ってるから気持ちだけでいい。ありがと』  「そっか、、わかった。何ができることあったら言ってね。こっち帰ってきたら教えて」  『うん、連絡する。じゃまた』    "ふぅ"と一息ついて手にしたスマホの写真フォルダを開く。少しの間地元を離れただけなのにやはり気の知れた美南の声にほっとした。  その時、中庭に車の音と使用人達の声が聞こえていつもよりだいぶ早い家主の帰宅に騒がしくなる。初人は窓から外を覗きいつ見ても同じ表情でロボットのように感情が見えない郁を見ていた。  『ご帰宅か、、まぁこれであの男の姿を見るのは最後になるか。あのムカつく顔見なくて済むのはいいけど、この部屋を出るのはちょっと惜しいな』  初人にとっては贅沢な数日間の暮らしだった。だけどどれだけ良い生活をしても近くに家族がいない、大切な人が一緒ではなければそれも寂しいだけ。初めて家を出て父親と離れて暮らした事でそれも身をもって知った経験だった。

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