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$4.金は天下の回り物⑫

 ファイルを開いてメンテナンス日程の箇所に記入されていたのは、確かに明後日の日付だった。防犯カメラは24時間作動しているの為、数ヶ月に1、2度の定期的な作動確認やメンテナンスが必要。    「そうですね。明後日の午前中の予定を今日に変更ってことでよろしいですか?」  『えぇ。できればそうして頂きたいのですが大丈夫でしょうか?』  「分りました。何時ごろに?」  『夕方までに伺えますが、全てのカメラの動作チェックしたいのでそれまで一旦カメラの操作の方を切って頂いておくのは可能ですか?』  「今から全てのカメラを切るということですか?」  『そうです。ずっと作動して熱を持ったままだとカメラ内部の静電気が蓄積しー……』  難しい専門用語をつらつらと並べて相手に理解する隙間を与えず、思考を狂わすため敢えて分からないように話し始める初人。  「はいわかりました。止めておきます」    『急な申し出受けてくださりありがとうございます。それではまた後ほど』    新米警備は"いつもそうしているんだろう"と特に疑いも持たず、電話を切るなり建物内と外にいくつかあるカメラも全て作動を停止した。 警備室のモニターは真っ黒になり完全にストップして初人の思惑通りに進んでいく。      『どいつもこいつもバカ。よし、それじゃ戻りますかっ』  おとなしくお座りをしていた犬達の頭を撫でてリードを引いて歩きだした。神崎邸に戻ると沙紀と江口が散水スプリンクラーの前にしゃがんで何やら話していた。声の大きな江口の声がよく聞こえて近くで聞き耳を立てるほどでもなかった。  「……こっちもですか?」  「あーそうだな、、多分全部ポンプ制御盤の作動不良だな。制御盤業者に問い合わせしないと直らないからそれまで悪いだけど、ホース使ってやってくれないか」  「えっ、この広い庭を全部ですか!?」  「それしか方法がなくてな。大変だと思うが、2 3日以内には直すから頼む」  「あー…はい。仕方ないですよね、分りました!」  「俺も手伝うから」  どうやらこの庭の植物の水やりは数日間ホース使って地道にやることになりそうだ。これこそ初人の仕組んだシナリオを順調に進んでいる。 冷静な顔でそのまま犬小屋へ行きいつものように仕事を進めていく。  そして何食わぬ顔して中庭にいる沙紀に状況を聞き今日の仕事の変更点や配置を指示してもらうと"やっとこの時が来た"と心の中で叫んだ。  「それじゃここを任せるわね」  『わかりました』  初人は中庭の一番端のエリアを任された。周りからは見えにくい位置で範囲も狭いこの場所は、まだ慣れない新人だからと配慮してもらえたのだろう。 確信はなかったがこうなる事も予想していて無事に次に進めそうと初人は少し顔を緩めた。  そしてそれぞれの配置で同時に水やりが始まる。ホースを引きながら水が噴射される音があちこちで聞こえる。遠くに江口や沙紀の姿があって、他の使用人も広い中庭に散らばって作業を進めていた。  そして"そろそろだな"と携帯の時間を確認してホースの水を止めた。そう、次は建物内に入り二階のあの部屋へ忍び込む。いよいよこの計画の最重要目的でもあり一番慎重になる場面だ。  周りを見ても仕事に集中し他人を気にしている様子は無い。抜けるなら今! そし初人は建物内に裏口から入るとそのまま二階へ続く階段を上がった。  いつもより使用人の数が圧倒的に少ない今日は、今のところ誰にも合わず二階までたどり着けた。

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