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$4.金は天下の回り物⑭

 頭の中で昨日ここで見た時計の配置を思い出す。一発でお金になり持ち場出し安いと言えばやはり腕時計だ。しかもこれだけコレクションしていれば一つなくなった所でなかなか気づきにくい。  かと言ってどれでもいい訳でもなく計画通りのものを探す。ポケットに入れた白い手袋をはめながら音を立てないように足音を忍ばせて歩く。 この部屋のコレクションはショーケースに入れた物といくつかの引き出し中の何ヶ所かに入っていて、まっすぐ同じ角度に几帳面に揃えられている。  「これがいいな」    初人手にしたものはロレックスの時計。結局はお金にならないと意味がない。価値があるが一点物ではなくそれなりに出回っている物。それこそバレても足がつきにくいもの、これが選ぶ条件。  時計に刻まれた型番を見ればモデル名、形状、素材が分かり初人は査定出来る。最低限の金額をクリアしていればひとまず今回の目的を果たせる。 いつもなら少し大胆に出るところだが、今回は無難に波風立てず終わらせたい。  引き出しの中は10個ほど似たような時計が並んでいて、目利きのいい初人が選んだ時計は1番端っこ。そして残った時計を動かしバランスよく配置をして空いた空間に違和感がない様に埋めた。  「これでよしっ!、、ん?」  引き出しの奥に見えた白い紙のようなもの。 取手を少し引くと裏返しになった写真のようなものが出てくる。なぜか一枚だけあってふと気になり出して裏返してみた。  「……あいつの、高校生の時の?」  そこにはブレザーの制服姿の郁の左側に父親。右側にスタイルの良い品のある女性がいてにっこり笑顔の3人が、学校の正門前で写っている写真。 正門前の学校銘板は初人でも聞いたことのある偏差値70以上はある名門高校。  高校一年生の郁はまだ背も低くまだ社会を知らない純真無垢の少年に見えた。右側の女性は郁の肩に手を置いてぎゅっと寄せて親密さを感じる。  「何だよあんなやつでもこんな可愛い時代があったんだな。今はそんな面影もない別人に様だけど。ってかこの人、、母親?……綺麗な人」  「ヤバっこんなことしてる場合じゃなかった!!俺としたことが」  この時点で5分が経過していた。後はこの部屋から無事に出て元の中庭に戻るだけ。初人は写真を元通りの場所に裏返してから奥にしまった。  今いるコレクションルームから寝室を通って、ドアの前まで来た。白い手袋を外し片方に時計を入れて包み、さらにもう片方にそれを入れ時計のクッション代わりとしてガードした。  その時、微かに空いた廊下から声が聞こえて初人は一旦動きを止めて様子を見る。鼓動が早くなってひとつ深呼吸をしてから、ドアから廊下の声のする方見ると使用人二人が立ち止まって喋っていた。郁がいない日と分かっているからか、いつもより気が緩む使用人もいる。 万が一、今出たりしたら確実に見られてしまう。  「何だよ、そんなとこで立ち話してんじゃねぇよ。帰ってきちまうだろうがっ」  日下がここから近いトイレに行ったとして長くても引き伸ばせる時間は7分程だろう。初人がドアの後ろでハラハラさせているなんて思いもしない使用人達はのんびり口調でどうでもいい話で盛り上がる会話。  そしてあと一息でミッションクリアというところで恐れていた事態が起こる。  「あっ!日下さんお疲れ様です」

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