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$4.金は天下の回り物⑮
廊下で話している日下と使用人の発言が聞こえガックリ頭を下げた。思いの外早く戻って来た日下と挨拶をしている姿がドアの隙間から見える。
まだお腹に手を当てている日下の本調子ではなさそうだがピークは過ぎたようだ。
「どうしよ、入ってきたら鉢合わせするじゃんか、、」
とりあえず広いこの部屋が隠れる場所はいくらでもある。きょろきょろと周りを見て万が一を考えて身を隠す場所を考える。
「そういえば、毎年恒例の郁さんの誕生パーティー再来週に日にち決まったみたいですけど日下さんも聞きました?」
「あー…うん」
「去年は有名人もちらほら来てたけど、今回も誰か来るのかな。日下さん知ってたりします?」
「さぁ。僕はテレビ見ないし有名人とか疎いからわからないかな」
「ほんと日下さんは真面目ですよね。そりゃ郁さんの部屋任されるわけですよー!、、あのっ、大丈夫ですか?何だか顔色悪いみたいですけど」
真面目な男は業務中に長い時間トイレに籠ることすら躊躇して、ひとまず戻ってきたようだ。二人心配されながら日下は冷や汗が止まらない様子。
「僕薬持ってるんで飲みますか?」
「でも、、まだ業務途中だから、、」
「何言ってるんですかそんな状態じゃできませんよ。今日は郁さん戻って来ませんし、ゆっくり治ってからでいいじゃないですか!とりあえず今は休みましょう」
「……うん、、ありがとう」
住み込み以外の使用人が着替えや休憩をする別部屋がありそこへ日下の身体を気遣いながら連れていく。そんな三人の後ろ姿をドアの隙間から確認してホッと胸を撫で下ろした。
『ったく冷や冷やさせんなよな。けどあいつらのおかげで助かったかな。彼には申し訳なかったけど、しっかりとこっちの仕事 させてもらったよ。えっと今の時間がー…ヤバっそろそろ戻らないとっ』
誰もいない郁の部屋を後にして走りポケットの中を気遣いながら急いで中庭に戻ると、水やりを終えた使用人達が次の業務に移ろうとしていた。初人はじっとりした汗を拭いて、あたかもずっとそこで作業していたように自然に振る舞う。
「新見くん、そっちはどう?こっちはやっと終わったわ」
『はい。こっちもとりあえず終りました。それにしても大変ですね、スプリンクラーのありがたさが分かりましたよ』
「そうねっ」
そして初人はいつもの業務に戻る。大事な任務を終え最後に隙をみて警備室に連絡する。"今日は行けなくなった。元々予定していた明後日に行く"と再び業者を演じて伝えると再び防犯カメラは作動し始めた。
全ては思惑通り進み、やり切った達成感とこれから元の生活に戻れれると期待感でポケットの中はずっしりと重かった。
あとは今晩この通過点の家から出る。
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