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$5.虎穴に入らずんば虎子を得ず⑤

 顧客リストに目を通していく。ゲストは皆EVOホテル関係者や取引先の重役達でリスト全員の名前や顔は把握している。 リストを全て見尽くすと最後にパーティー当日着用するスーツのリストも添えられていた。少し光沢感のあるハイブランドのスーツの一覧を指で弾きながらページを進めていく。  スーツはもちろんネクタイや靴の細い箇所までキッチリ決められた当日の服装を全て選んで衣装担当が用意する。  「しばらく出してないな」  突然思い出した様にタブレットを机に置き椅子を引いて立ち上がり向かったのはコレクションルーム。リストにはないが、毎年決まって誕生日を祝う際に身につけるものがある。  アクセサリーは普段身に付けない。この部屋にだって数えるほどしかないが、パーティーの時にだけつける指輪と腕時計がある。  中に入るとまずはアクセサリーを収納している引き出しを開けた。たまにしか日の目を見ない高価なルビーの深紅の輝きは取り出した瞬間ライトに眩しく反射した。  ルビーは7月の誕生石で"熱情""仁愛"そして"威厳"の意味を持つ。祖父からの誕生日プレゼントだった。いつかホテルを背負って立つ孫に強く育ってほしいとの思いで渡したモノだ。  「Sランクのピジョンブラッドルビー、全く劣化していない。さすがだな」  しばらくしまったままで手入れもなしでも輝きを失わないのは高級品の特徴だ。満足した郁の身体は少し疲れが解けたようにルビーを戻してまた歩きだす。  腕時計の引き出しは多いがどこにどの時計を収納したかすべて全て覚えている。毎日使用する仕事用から年に一度着ける程度のモノまで様々だ。  年に1度の誕生日パーティーは郁にとって一番大切にしている時計を着ける。それが入っている引き出しに向かい取っ手に手をかけた。  「失礼します。食事の準備が出来ました。郁さん、、?」  田ノ上が食事の声かけに来たがさっきまで座っていた椅子に姿が見えなくて部屋を見渡していると奥から"こっちだ"と郁の声が聞こえてコレクションルームを覗いた。  「何をされてるんですか?」  「田ノ上、最近この部屋に入ったか?」  「いえ、、私は入っていませんが」  「他に入った者は?」  「あと入れるのは旦那様か清掃係かと。何かー…あったんです?」  田ノ上は中に入り近づいて行くと目の前の空いた引き出しを見つめている郁にただならぬ雰囲気をを感じ、ピタッと進む足を止めた。田ノ上の言葉を聞いて郁は顔を上げて天井の防犯カメラに視線を向けた。  「警備を呼んでカメラに確認させろ、今すぐだ!」

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