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$6.誰もがみにくいアヒルの子②

 買い込んだ缶や瓶のお酒がテーブルに置かれてお菓子もおつまみ代わりに置かれている。初人から見ればお酒の種類もアルコール度の低いものばかりで、何だか可愛らしく夕日らしいなと思えた。  『こんなに買ったの?』  「うんそう。何だかすごく飲みたい気分で。だけど1人じゃなあ〜って思ってて!だから慧が付き合ってくれて嬉しいよ」  『俺はタダ飲みなら断らない主義』  「だけどさタダより怖いものはないって言うよ〜」  夕日は足で床に置いているのか落ちているのか分からない衣類を蹴って端に寄せながら"座ってと"椅子を引く。  使用人の部屋は分け隔てなく平等で、新人だろうがお局だろうが間取りも広さも同じ。だけどボストンバッグ一つの荷物の初人とは大違い。  それなりの時間過ごしているとこの与えられた仕事や環境が当たり前になって、きっと郁への免疫さえ備わればこれほどいい環境はないだろう。 今はもうここが我が家だと馴染んだ部屋は時間の経過を物語っている。      『何だよ何か裏があんの?でも俺はそう思わない、この世はタダより勝るものはないと思ってるから』  「ははっ!何それ?いや〜やっぱ慧って変わってるよね、もっといっぱい話したいな」  『そうかな?普通っしょ』  「じゃ!とりあえず乾杯しますかっ、はいこれどうぞっ。大丈夫!後でお金請求したりしないからさっ!」    いつも明るくて無邪気な夕日がいつもに増してよく喋るけど少しカラ元気にも思えて気になった。無理に笑って様な何か忘れたいことでもあるのか、そんな様子にも見えたが目の前の瓶を持つと、差し出された夕日の持つ瓶とぶつかる音が綺麗に鳴った。  「僕らの友情に乾杯〜〜!!」    グーっと一気にハイペースで飲み進める夕日を横目に、初人はゆっくりと神崎家の噂話から個人的な趣味までひたすら喋す夕日の話をずっと聞いていた。意外にも読書が趣味という夕日、言われてみればこのごちゃごちゃした部屋でよく目につくのは本の数。それも漫画ではなく分厚い小説や翻訳された洋書だ。  その中に何冊か奥に重なりあっていて置いてあった絵本に目が止まる。初人は立ち上がって奥へ手を伸ばした。  『みにくいアヒルの子だ。何でこんなの持ってんの?』   表紙のアヒルの絵を見れば誰だって知っている有名な絵本だ。実家ならともかくこんな使用人の家で絵本を見るなんて。  「その本は施設で貰ったんだよ」  『施設??』  「そう以前話したことあったよね、僕が子供の頃に児童養護施設で育ったって」  『あぁうん聞いた。そこでこの本を?』  「施設を出る時にね」  『みにくいアヒルの子か。懐かしいな、あれ?終わりってどんなだっけかな』  初人がページを捲りながら懐かしさに浸って物語の結末を急ぐ様にページを進めていると、後ろから鼻をすする音が聞こえて振り返った。  『えっ、夕日泣いてんの?』  「、うっ、、ッ。今日さ実は……施設に行ってきたんだ」  『外出してたってのは施設に?それで?』  「……泣いたりしてごめん。何て言うか自分の非力さが悔しくて、、施設の為に何もしてやれない自分が情けなくてー…ゥ、、っ、、」  『いや待って何かあった訳?順を追って説明してくんないと分かんないよ」  「慧……聞いてくれる?」  やはり初人の直感は間違いではなく秘めた何かを吐き出したくてこの部屋に誘ったのだ。なかなか見ない夕日の弱った姿を放ってはおけるはずもない。  それから夕日は溢れる涙を必死で堪えながら事の経緯を話始めた。  「その施設さ、、もうすぐ無くなるって。今日そう言われたんだ」  『無くなる!?どうして?』

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