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$6.誰もがみにくいアヒルの子⑦

 『……その話嘘じゃねぇだろうな。ほんとにお父さん救ってくれんのかよ』  「俺は出来ない事は口にしない」    盗難を許して弁護士まで立てるなんてそんなうまい話があるはずは無い。しかも発言者はわがまま御曹司の神崎郁と考えれば、ますます疑わしい。  だが背に腹は変えられない。今自分にできる最大限は少しの可能性にも従うことだ。  『イマイチ信用性に欠けるけどー…仕方ねえか』  「おいっお前な、自分のした事を棚に上げといてよくもそんなこと言えるな。どの口が言ってんだ」  『まぁそれもそうか、、で?任務ってー…何すればいいんだよ?』  「お前俺の女になれ」  "?????"頭の中はひたすらハテナマークが浮かぶ。想定外の発言にどうせまたからかわれて遊ばれているんだと少し苛立ちの息を漏らした。  『何あんた意外と冗談と言うタイプ?だとしたら超つまんないんだけど。そんなのいいから早ー…』  「冗談じゃない。これが任務だ」  『はっ、、?女になれってどうゆう事?』  郁は歩いて窓の近くへ行くとゆっくり窓を閉めて、念には念を外に声が漏れないよう慎重を を期す。室内は風や雑音が消え静寂がまた重い緊張感を生む。  「俺には付き合っている彼女がいて結婚も考えている」  『あっそ。で?それがなんだよ』  「親父はそれを知らない。だがつい最近縁談の話をもってきてな、相手は取引先社長の娘でいわゆる社長令嬢だ」  『何か金持ちにありがちな話だな』  「もちろんその縁談に乗る気はない。ただ断るにも彼女の存在を親父に伝え合わせる必要がある」  『じゃあそうすれば解決だろ』  「馬鹿か。そうはいかないから言っている」  彼女は現在カナダに留学中で大学院の学生。学校卒業まであと一年、その後彼女が帰国し就職し一、二年で彼女の仕事が安定する頃には郁自身も副社長の地位にいるはず。その時に結婚をする予定だと、郁は淡々とこの先の人生計画を話し出した。 まるで結婚までもホテル経営プランと同じように緻密(ちみつ)に組み込まれた計画性と現実性で細かく決められていた。  「とにかく今は縁談を白紙になる様乗り切ればいい。その後の事はその時考える。そこで彼女に扮装(ふんそう)したお前を親父に合わせようと思っている」  『はっ!?ちょちょちょちょい待ちっ!いくら何でも男の俺が女に変装しすればバレるに決まってんだろ』  「それがそうとも言い切れない。お前はチビだし、顔立ちや肌質も女にも見える。多少訓練すればいけるだろう」  『ふざけんなよ。しかも相手はあんたの親父さんだろ?万が一バレたらあんたも俺もやばいって、危険すぎるだろ。俺はやだよ、そんな危ない橋は渡れない』  「そうか残念だな。それならお前の父親の刑務所行きは確定だ。途中までの計画は完璧だったが、残念ながら今回は失敗の様だ。ご苦労さん」  郁は初人の急所を突いた言葉を浴びせた。初人も今回に限っては惨敗だと身に染みて感じている。何の為にここに来たのか、、危ない橋ならもう充分渡って来たはずなのにここで人生終わりにするのか。  『、、、待てよ……さっきの、、訓練って?』  「何だ。やらないんじゃないのか?』  『今すぐ弁護士つけて動いてくれるって言うならー…』  「逮捕から起訴まで最長でも23日、既に半分経過している。すぐに連絡して、昼には弁護士を向かわせよう」  『わかった。俺やるよ、その任務。だから親父を助けて欲しい』  初人は頭を下げた。時間が経てば経つほど不利になり父親の体力や精神も限界に近付いている。余計な意地やプライドは何の意味も持たない、雑草魂こそ初人の生きていく何より強い武器だ。  「取引き成立だな。明日から早速訓練開始だ」  『だからその訓練ってなんだよ』  「お前そのままの状態で欺けると思ってるのか。親父はそんなに甘くない。明日からは呼んだらすぐ来るように」  『何か変なことするわけじゃねーだろな』  「明日になればわかる」  そう言ってフッとニヒルな笑みで部屋を出て行った郁。時間にして40分ほどの出来事は心理戦の様に互いの読み合いで神経を相当すり減らした。  そしてここへ来た数日間が物語のリハーサルだったかのように、初人の本当のシンデレラストーリーの幕がここから上がっていく。

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