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11 流星群(※)
「今ね、流れ星見えたよ。先生のことお祝いしてくれてるみたい」
「それは光栄だな」
「だめだよぉ、ちゃんと見て」
夜空に背を向けたままの先生の顔を手で挟み、ぐるん、と向きを変えさせた。
「今いっぱい降ってたんだよ。先生も見てて。湖に落ちてくるみたいで綺麗だったの」
「……俺は星よりも暁の方が……」
そう呟くと、先生は体勢を変えてハンモックに座り直した。股の間におれを挟んで、背後から抱きしめる恰好になる。
「せ、せんせ……?」
「ん? こうすれば星も見えるし、暁にも触れるだろう」
シャツの裾から先生の手が入り込み、フェザータッチで脇腹を撫でられた。くすぐったいのとひやりとした感触とで肌が粟立つ。
「っ、冷たいよ」
「温めてくれ」
「ゃ、ん……せんせぇ……」
寒くないようにという配慮からか、極力服は捲らずに体を撫で回される。けれど、その気遣いが逆に背徳感を煽る。服の下で先生の手がもぞもぞ動いているのを、触覚だけで感じ取る。感覚が鋭く研ぎ澄まされたところでいきなり乳首に触れられると、びくっ、と胸が反ってしまう。
「おっ、流れ星」
「ふぇ……どこ……?」
「もう消えてしまった。ダメじゃないか、ちゃんと見ていないと」
「だって、ぁ……せんせが、触るからぁ……」
大きな掌が胸を包み込み、ふにふにと優しく揉まれる。四本の指が下から上へと順々に乳首を撫で、終わったかと思えば今度は上から下へと撫でられる。弾かれ、押し潰されるような刺激に、乳首がいやらしく勃起する。勃起した乳首を抓られて引っ張られるとちょっと痛いのに、どうしようもない官能の波が全身に広がる。
「ふぁ、あ、んゃ……っ」
「暁。ほら、また。流れ星だぞ」
「んっ、んぅ……せ、せんせぇばっかずるい……おれも見たいのにぃ……」
空を見上げ星を探す余裕なんかとっくになくなっている。乳首を可愛がられながら耳をぴちゃぴちゃ舐められては、目を開けているだけで一杯一杯だ。
「こっち向きだと、普段とは違う触り方ができて結構楽しいな」
人差し指と中指で乳首を挟んで転がすように捏ね回された後、親指と中指で強く摘まんで捻るように扱かれる。そうしながら、一番敏感な尖端を人差し指ですりすりくりくり擦られる。胸を優しく揉みながら、勃起した乳首をピンポイントでつんつんかりかり突つかれる。荒波のような快感が立て続けに押し寄せて、息をするのもままならない。
「やっ、やぁ……せんせ、もう……」
「星はもういいのか?」
「いいっ、いいからぁ……した、さわって……っ」
「本当に? ここがどこだか、分からなくなっちゃったのか?」
その言葉に、官能の海に溺れかけていた意識が僅かながら浮上する。消えかけの焚火が視界の隅に入り、ぶわっ、と汗が噴き出した。体が燃えるように熱い。
「だっ、だめっ、だめだよ、こんなとこで……っ!」
「そうだな。外でこんなこと、ダメに決まってるな」
そう言いながら、先生はおれの口を塞いだ。濃厚に舌を絡めつつ、乳首を弄る手も止まらない。流れ込む唾液を一所懸命嚥下すると、ご褒美とばかりに舌を吸われる。嬉しくて、おれも先生の舌を吸う。
「ん……ぁっ」
いきなり、視界が全面星空に切り替わった。ハンモックに寝かされたのだ。真っ暗な夜空に無数の星が瞬いていて見惚れるほど綺麗。キラッ、キラッ、と流れ星も煌めいた。
しかし休憩も束の間。いつの間にか下着まで脱がされて、乳首への刺激で勃起してしまったそこを、先生はあろうことか口に咥えた。あっ! と叫びたくなるのを堪え、両手で口を覆い、ぐっと歯を食い縛る。
初めてのことを知らない場所でするなんて。しかもここ外なのに。キャンプ場なのに。先生、何考えてるんだろう。セックスを他人に覗かれる趣味もないはずなのに。これじゃあただの露出狂だ。どうしよう。
「ゃ、め……だめ……」
「心配しなくても、隣からはかなり距離がある。間に植え込みもあるし、気付かれないよ」
「で、も……っ」
「トイレからも離れてるだろう。ここが一番外れなんだ。誰も通らないさ」
「ふぁ……ぅ……っ」
そんなことを言われても、屋外であることには変わりはない。外でエッチするなんて、獣みたいで嫌だ。
「っ……今、ピクッとしたぞ。何を考えたんだ」
「なんでもな、……んんっ」
恥ずかしいと思えば思うほど、体はより敏感に火照っていく。唾液をたっぷり纏った肉厚の舌がおれの一番敏感なところを包み込み、ねっとりと吸い上げる。腰が勝手に揺れ、まるでねだるように先生の口に押し付けてしまう。声を押し殺しているとまともに呼吸もできず苦しい。顔が真っ赤になっていると思う。
「や、ぅ、あぅぅ……だめ、だめぇ……っ」
「ん……出していいんだぞ。全部飲んでやるから」
「っ!? やっ、やだぁ……」
左手で口を覆いつつ、右手で先生の髪を掴んで引き剥がしにかかる。けれど先生の頭は全然動かない。そもそも腕に力が入らない。軟体動物みたいにくにゃくにゃになってしまっている。そうしている間にもどんどん追い詰められる。尖らせた舌先で、くり、と鈴口を穿られたのが決定打だった。
「くっ……ン゛ん゛――っ!!」
辛うじて声は抑えたが、体は陸に上がった魚のようにビクンビクンと激しく跳ねた。イッてる最中にも亀頭を吸われ、一滴残らず吸い出されて、腰が急カーブに仰け反った。声もなく、胸を激しく上下させて喘ぐ。霞む視界に、流星がまた一つ光る。
「はぁっ……ふぁ……あっ……」
お尻から、何かが抜けていく感覚がした。たぶん先生の指だ。前を舐めながら後ろを拡げていたとは、なんて器用なんだ。確かにそういう感覚がなかったわけじゃなかったけど、口でされるのなんて初めてで、そっちの感覚が強すぎてよく分からなかった。
「暁」
おれを安心させるように、先生は優しく微笑む。けど、だめだ。このままだと、本当に星空の下でエッチすることになっちゃう。野生の獣になっちゃう。そんなの絶対だめ。
「せん、せ……」
「どうした? 上は着たままでいいから、ここに手をついて」
「ゃ……な、なかで」
「ああ、今から中にやるからな」
「ちが……て、テントのなかで……」
「外でするのは好きじゃないか? 星も見えて綺麗なのに」
「で、でも……外でなんていや……」
「俺は、なかなか開放的でいいと思うが」
とろとろに解けてしまった蕾をそっと撫で上げられる。腰にぞくぞくきて、胎が切なく疼く。
「ぅ……だって、声が……」
「声が?」
「声だせないの、つらいんだもん……くらくて、せんせぇの顔、みえないのもいや……」
「そうか」
「ん……」
「しかし、どっちにしても声は我慢してもらうことになるぞ」
軽々と抱き上げられた。お姫様抱っこなんて恥ずかしいけど、どうせ誰も見ていない。先生にしがみついて、肩に顔を埋め、汗の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
テントの中は外よりも大分暖かい。しかし今のおれ達にとってはどうでもいいことだ。外にいても暑くて敵わなかった。さっさと服を脱いで裸になる。ベッドに横になろうとすると、先生がおれの手を引いた。
「せっかくだから、こっちでしようか」
窓際のテーブルに手をつくよう導かれる。大きな窓からは、もちろん豊かな景色を望むことができる。静かな湖、連なる峰々、星の満ちる天も見える。
ちゅ、と熱く猛ったもので入口にキスされた。いつの間にか先生も服を脱いでいた。男の色気たっぷりに溜め息を吐き、唇を舐め、野性味のある表情で髪を掻き上げる。おれの腰を掴む腕も雄々しく逞しい。たったそれだけで、存在しない子宮が疼く。待ち切れなくて、腰を突き出す。早く抱かれたい。めちゃくちゃにされたい。この人だけの雌になりたい。
「いいな?」
「うん……」
ゆっくりと先端が埋め込まれる。それだけで頭の芯が痺れるくらい気持ちいいのに、先生はあくまでもゆっくりと、焦らすようにおれの中を進む。いやらしく蕩けきった痴肉が奥へ奥へと誘うように収縮するのに、それに抗うようにゆっくりゆっくり割り開かれる。堪らず腰をくねらせ自ら呑み込もうとするも、宥めるように頭を撫でられる。
「こら、そんなに急くな。これも君のためなんだぞ。激しくやるとすぐ記憶を飛ばすだろう。声も響くしな……」
そう言って、入口付近で浅く抜き差しされる。前立腺に当たるか当たらないかの際どいところを擦られて、もどかしい。もどかしいけど、頭の芯が痺れるような快感が無限に続いて、それはそれで悪くない。体がゼリーみたいに溶け出してしまいそう。
「んっ、は……せんせ、せんせぇ……」
「ん……暁」
ゆるゆると腰が揺れる。亀頭が前立腺を掠め、体に電流が走る。けど絶頂には至らない。肉棒が抜けていき、孔の縁が捲れ上がる。
腰を掴んでいた先生の手が顎に添えられ、くい、と後ろを向かされた。美味しそうな唇が見え、本能的に舌を出す。途端、ぱくりと舌を咥えられ、音を立てて吸われた。まるで舌が性器になってしまったかのように、燃えるような快感が全身に広がる。
先生もいよいよ切羽詰まったように息を荒くして、貪るようにキスをする。舌を絡ませながら、腰を回すように動かして中を掻き混ぜる。二人分の唾液が喉を伝い、ぼたぼた垂れて染みを作る。
「んぅぅ……もぉ、らめぇ……イキたいよぉ……」
「まだだ……っ、もう少し……」
「ひぁ、ぅ、んぅ……」
「なるべく声は我慢しろ……、テントの壁は薄いんだ」
「っ、ぅ、むりかもぉ……」
傍から見たら滑稽だろう。お互いに貪り尽くしたくて堪らないのを耐えて耐えて声を殺して乳繰り合っているのだから。さっきからずっと、理性と野性の狭間を行ったり来たりしている。今のところ理性が僅かに勝っているけど、そろそろ押し負けそうだ。だってもう、体が限界。イッてないのに、イッた後みたいにお尻の中がひくひく引き攣れている。
「んゃ、……も、らめ……い、ちゃう、おれ……いっちゃいそ……せんせっ……」
「俺もだ……お前の奥に届く前に、果ててしまいそうだ……っ」
「も、もっとだめ……おく、きてくれなきゃ、いや……」
先生が喉を鳴らす。再び口を塞がれる。舌を根元まで絡め取られては声も出せない。腰を掴む手に力が入る。ああ、いよいよ。いよいよ来る……のか? 期待と興奮は最高潮に達する。
「んっ……っ!」
来た。来てしまった。待ち焦がれた刺激が。ちょっとずつ、ちょっとずつではあるけど、硬くて太くて気持ちいいのが、おれの空洞を満たしていく。嬉しいのと気持ちいいのとで涙が滲む。前立腺を掠めて、さらにその奥まで進んでいく。どうしよう。もう軽くイッてる感じがする。お尻が気持ちよくって馬鹿になる。
「っ……ン゛ん゛――ッッ!!」
こつん、と突き当たりに衝撃が届いた瞬間。視神経が焼き切れたように、目の前が真っ白に明滅した。チカッ、チカッ、と光が瞬く。瞼の裏にも星があったなんて、知らなかった。
あっ、どうしよう。気持ちいいの、止まらない。普通、射精したら一旦すっきりするのに、それがない。イッてるのに、どこへもイけてない。無限にイキ続け、気持ちよくなり続けてる。中がぎゅんぎゅん畝って、先生のをぎゅうぎゅう締め付けてる。体が闇雲にのたくって、筋肉が痙攣し続けている。酸欠でぐるぐる目が回る。コーヒーカップに乗ってるみたい……
「――暁、しっかりしろ、暁」
ぺちぺちと頬を叩かれ、正気に返った。先生が心配そうに覗き込んでいる。後ろからは気持ちいいのが抜き去られていた。
「暁? 大丈夫か?」
「わ、わかん、ない……おれいま、イッた? のに……だ、ださないで、イッちゃった?」
「そうらしいな。前にも一度あったが、ここまで激しくなかったが……」
「で、でも、おかしいよね? せんせぇに弄られすぎて、おれのおしり、おかしくなっちゃったの?」
「いや、稀にあることだと思う。俺が開発したせいというのはその通りだと思うが、おかしくなったわけじゃない」
「そ、そうなの?」
「ああ。しかし、参ったな。ゆっくりする作戦は逆効果だったか」
先生のあそこはまだ赤黒く腫れ上がっていて、刺激を待ち侘びているように見えた。おれだって、まだ足りない。もっと欲しい。腰を揺すって、先生のそれにお尻を擦り付ける。
「だいじょうぶ、だよ……声、ちゃんと我慢するし……もう二回もイッてるから、ちょっと落ち着いてきた気がするし……ね、しよ?」
先生は困ったような顔をしつつ、おれの腰を掴み直した。尻臀を開いて、再びゆっくりと貫かれる。
「んぁっ……いいっ、いいよぉ、せんせぇっ」
「く……声は我慢するんじゃなかったのか」
「だってぇ……、ぁん……きもちいんだもん……」
とん、と再び突き当たりまで届いた。ぶるるっ、と獣のように悶える。全身の毛が逆立つ。先生の腰とおれの尻がぴったり密着していて、たったそれだけのことが十分興奮の材料になる。先生と触れ合う場所全部が性感帯になったみたい。おれの体、いつからこんなに敏感になっちゃったんだろう。
「っ……動くぞ」
差し迫った調子で呟き、背後から圧し掛かられた。一番奥の壁をぐりぐりと抉じ開けるように突かれて、すぐにまたイッてしまいそうになる。震える体でテーブルに齧り付いてどうにか堪える。先生は爪を食い込ませておれの腰を掴み、テーブルがガタガタ鳴るのも構わずに激しく腰を振りたくった。
後ろから荒々しく突かれて、何度も何度も繰り返し突かれて、脳の芯を揺さぶられるほど突かれて、最早自分がどんな声で喘いでいるかなんて完全に意識の外だ。結構うるさかった気がするけど、先生はただ息を荒げておれの首筋を舐める。
体に力が入らず、膝が震え、立っているのも辛くなって腰が落ちていくけど、先生はひたすら自分が動きやすいようにおれの腰を掴んで無理やり持ち上げるので、そのうち爪先さえも床に届かないほど高い位置に抱え上げられて、そうなると体が安定せず、ますます踏ん張りが利かなくなる。そうなると、もう耐えられない。
「ぁ゛んっ、あっ、だめぇ、いっ……ぃ゛、いっちゃうぅっ」
そう叫ぶと、ぬるり、と性器を撫で上げられた。
「ッ――っ、ん゛ぅう゛っッ!!」
ぎゅう、と目を瞑ると、やっぱりお星様が見えた。黒地に白いお星様。夜空と同じ。
「……っ、ぐ……」
先生も低く唸る。甘く舐めていた首筋にいきなり歯を立てられ、手首を押さえ付けられ、全身で体を押さえ込まれる。そうして、おれの一番深いところで先生は果てた。熱く脈打つ感覚が内臓から伝わる。先生の激しい鼓動が、荒い息が、筋肉の振動が、伝わってくる。
そのまましばらく動けないでいた。テーブルに乗り上げた体勢のまま、お互い静かに息を弾ませていた。意識的に深呼吸をすると中が締まって、先生の形がよく分かった。
「……暁……」
「せんせ……ん……重い」
「すまん、すぐに……」
「やだ、だめ……まだくっついてて」
「可愛いことを言うな。離れられなくなる……」
ゆっくりと、先生の体が離れていく。背中が汗でべたつくのに、不思議と爽快な気分だ。ずっぽり嵌まっていたものも、粘着いた音を立てて抜けていく。空っぽになった胎が寂しい。さっきまでは苦しいくらい満たされていたのに。
「……見て、先生」
「どうした」
「流れ星が、すごい、いっぱい見えるよ」
窓辺の床にぺたんと座って空を見上げる。片付けをしてくれていた先生も隣に座った。
「確かに、夜中よりよく見えるな」
「うん。あっ、ほらまた」
長い尾を引いて、いくつもの星が天を滑っていく。湖に落っこちては淡い光を灯し、夜明け前の世界を仄かに色付けている。
「先生、何か願い事した?」
「そんなことしなくても、一番の願いは既に叶っているからな」
「そうなんだ。おれもだけど、でもせっかくだから、一個だけ星に願ってみようかな」
手を合わせ、心の中でお祈りする。これから先、十年二十年と年を取っても、先生とずっと一緒にいられますように。
「何を願ったんだ」
「内緒だよ。恥ずかしいもん」
「流れ星に頼らなくても、俺にできることなら何でも叶えてやるのに」
「んー、せんせぇにできるかな?」
「そんなに難しいことを願ったのか? 流れ星も相当重荷だろうな」
「ふふ、どうだろ。きっと叶うよ。そんな気がする」
甘えて、キスをねだろうとした。先生は先回りしておれの肩を抱く。唇に柔らかな温もりが触れ、うっとりと目を瞑った。
当初の予定とはちょっと違うし、お互い汗だく汁だくで大変な有様だけど、先生とすることなら何だってロマンチックに変わる。それが砂糖のようなキスなら尚のこと。この上なくロマンチックだ。
二時間ほど眠ったが、窓から差し込む朝日とけたたましい鳥の囀りに叩き起こされた。まだ早いけど、二度寝はできそうにない。仕方なく起きて、外の水道で顔を洗い、歯を磨く。湖畔の空気は清らかに澄み、露に濡れた草木の匂いがした。BGMにふさわしいのは、ペール・ギュントの『朝』だろう。
朝食はハムとチーズのホットサンドに、野菜たっぷりのポトフ、それから卵とソーセージをスキレットで焼いて食べた。デザートにヨーグルトとフルーツがついていて、コーヒーを豆から挽いて飲んだ。チェックアウトのその時まで、ゆったりとした時間が続いた。
今日はロープウェイで登山をする予定だったが、先生もおれもほとんど徹夜のため眠くて仕方なく、急遽予定を変更して日帰り温泉で昨晩の汗を流し、仮眠室で休んでから旅行を終えた。
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