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第13章

フラヴィオとセシリオは寝台に上がった。 身分を象徴する豪奢な服や、今までの境遇を現すペイジの装束を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。 セシリオはいつものように、前髪を後頭部で結った。爛れた皮膚と鮮烈な金と緑色の目が現れる。それを目にしただけでセシリオの手の感触が思い出され身体が疼く。 仰向けに寝かせられたフラヴィオは、ただセシリオに身を委ねた。 セシリオはフラヴィオの手を取り騎士のように接吻する。フラヴィオはハッとした。モデルになるとき、セシリオが唇で触れてくることはなかったからだ。 セシリオの顔を見上げれば、金と緑色はひんやりとした温度で見つめてくる。だが触れてくる手は優しい。ただ形を確かめるだけなのか、愛撫と交合なのか、フラヴィオには判断がつかなかった。 しかしそのどちらでも無理を強いられたことはない。フラヴィオはしばらく静観することにした。 セシリオの指がフラヴィオの指の間に通され、根本から爪の先までゆっくり撫で上げる。子爵の屋敷で働いたことで、白い手の皮はわずかに分厚くなり少しかさついていた。セシリオは憂いに目を伏せ指先に口づけて、苦労されましたね、と労った。 次に折れそうな細腕を慎重になぞり、鋭角さを増した肩や首筋をつたい、薄い胸にたどり着いた。 そこを撫でると硬くなった胸の粒がセシリオの指に引っかかる。フラヴィオが小さく声を上げれば、セシリオの金と緑色の目は欲情に波立った。しかし深く息を吐き、再び目を開いた後には凪いでいた。  指先は何度か胸の先を往復し、やがて腹を通り下半身に降りていった。セシリオはフラヴィオのつま先まで、唇や手でその形を確かめていく。 とうに勃ちあがっていた陰茎にも手が伸ばされ、透明な水がセシリオの指を濡らした。形を確かめるよう何度かゆっくり扱かれ、フラヴィオは声を上げそうになるが口を結んで密かに身悶えた。 全身の探索を終えたセシリオは、次にフラヴィオの臀裂に指を滑り込ませる。香油を塗った指をゆっくりと窄まりに入れていくと、触るほどに弾力を増していった。増やされた指を難なく飲み込んでいく。 フラヴィオは嬌声を堪えていたが、中で指が動き始めると甘い声が弾けた。もう耐えられなかった。嬌声を撒き散らし腰を揺らす。 「あっ、あっ、駄目・・・っ、あぁ!また・・・!」 セシリオの指は隘路に潜む快楽の塊を見つけだした。突かれ、引っ掻かれ、時には大きく抉られて、フラヴィオの白い身体は寝台の上を跳ね回った。 「どんどん柔らかくなって・・・もしや贈り物を使っていただいたんですか?」 指を束にして抽送をするセシリオの声は、フラヴィオには届いていない。身体の中で暴れ回る快感に翻弄され、それをどうにか逃すのに必死であった。 フラヴィオの体内で、白い濁流が睾丸を押し上げる。射精より排尿する前のような感覚が強く、未知の感覚にフラヴィオは戸惑う。堪えたが下半身は痺れて上手く力が入らない。一際大きな快感の波に襲われて、やがて決壊する。 「やあっ、ああっ、セシリオ、ゆるして。見ないでっ・・・あああぁぁああ!」 匂いのない透明な液が迸り、セシリオの顔にも雫を飛ばした。フラヴィオの身体はガクガクと震えて、彼方へ飛ばされそうな意識の端を必死に掴んでいた。 快楽の頂から意識がゆっくり降りてくると、身体の下に敷いた毛布はぐっしょりと濡れており、へそには水が溜まっていた。腹に散った雫が口に入るのも厭わず、セシリオは唇を寄せる。 「駄目だよ汚い」 フラヴィオの言葉にセシリオは顔を上げる。快楽の余韻が残る悩ましげな顔に手を当て、首筋を通り、忙しなく上下する胸まで掌全体でなぞる。セシリオの口元に笑みが浮かんだ。 「やはり、私は間違っていなかったようです。どこまで暴いても、どれだけ乱れても、貴方は美しい」 勿忘草色の目が見開かれる。 「フラヴィオ様、美しい刹那だけ切り取っても良い作品にはなりません。醜さや欠点や苦しみを内包しているからこそ、人間は美しいのです」 フラヴィオは泣きたくなった。 「お前はいつも、そればかりだ」 声の震えを隠して、滲む目を擦る。 セシリオの作品は確かに素晴らしかった。大きくて繊細に動く手に触れられるのも心地良い。 けれども、セシリオは自分より作品を作ることを重んじているような気がした。セシリオに触れられるたび自分ばかりが劣情に溺れている。 「言ったでしょう。私は、貴方の前ではただの男になってしまう」 セシリオは困ったように眉を下げるが、金と緑色の目は愛おしそうに細められた。 「私はもう、貴方に彫刻家として触れられません。触れたら奪わずにいられないし、今も欲しくてたまらない」 フラヴィオにのしかかるセシリオの中心は熱くなり、存在感が増していく。子爵に触れられた時のような嫌悪は感じない。逞しい腕の中はただ暖かかった。 「浅ましい男だと、軽蔑しますか?」 フラヴィオの胸がすっと軽くなる。フラヴィオの中でセシリオは、崇高な芸術家ですべてを悟ったような男だった。そんなセシリオの中にも情欲や独占欲は存在するのだという当たり前のことに、フラヴィオは改めて気付かされた。 途端に自分よりずっと歳上で身体も大きなこの男が、ひどく愛おしくなった。 フラヴィオはセシリオに腕を伸ばす。 「僕も同じものを持っているし、お前と同じ気持ちだよ。 ・・・・・・来て、セシリオ」 フラヴィオはセシリオの頭を抱えるように抱きしめた。セシリオもフラヴィオを掻き抱き抱擁を深める。重なり合った身体の隙間で熱くなった雄芯が擦れ合い、フラヴィオの脚がセシリオの腰に絡みつく。 セシリオはフラヴィオの顔を手の甲で撫で、じっと目を見る。フラヴィオはセシリオが考えていることがわかり、来て、と呟くと直後に熱の塊が身体を貫いた。再び少量の液がフラヴィオの陰茎から噴き出す。絶頂に震える身体を逞しい腕がしっかりと抱きとめた。 「すみません、今日は抑えが効かない」 腰を打ち付けながら顔を歪めるセシリオは野獣さながらで、組み敷かれ啼き続けるフラヴィオは貪られる獲物のようであった。 しかし、以前抱かれた時いかに慎重に、また大切に扱われていたのかが分かった。 セシリオの顔を捕まえフラヴィオから唇を重ねる。セシリオは獣のように唸り、フラヴィオの脚を持って身体を折りたたむようにのしかかる。セシリオの熱杭はフラヴィオの奥へと食い込み、叫びを上げるがすぐ分厚い舌で絡め取られた。声を上げる代わりに涙がぽろぽろと溢れてくる。 啜り泣くフラヴィオの声が耳に入ったのか、セシリオの動きが緩やかになる。 「すみません、辛かったですか?」 「・・・うるさい。続けろ」 「ふふっ、仰せのままに」 フラヴィオが少し鼻声になっていたのに気づいたのか、セシリオの声に笑いが混じる。すでにあられもない姿を晒しているのに、弱みを見せまいと虚勢を張るのがかわいくてたまらない。 初めてフラヴィオに触れた時もそう思った。尊大な態度を取りながらも身体はかすかに震えていて、あけすけに誘ってくるのにこちらから迫れば戸惑いに強張っていた。 セシリオの杖が折られた時の激昂も肌で感じており、本当は真っ直ぐな気性であることも分かった。 フラヴィオは決して悪い人間ではないと、セシリオは最初から識っていた。 「愛しています、私の女神(ミューズ)・・・」 フラヴィオの頬に手を添えれば、みるみるうちに熱くなってきた。言葉には出していないが赤面しているに違いない。愛おしさが溢れて口付けせずにいられなかった。 細い身体を抱き込み抽送の速さが増す。フラヴィオも手や脚をセシリオの身体に絡ませてしがみつく。 肉体も情欲を剥き出しにして、お互いの身体をぶつけ合った。すべてを晒し合うことはもう恐くない。その間も、精魂尽き果て眠ってしまった後も、二人は抱き合ったまま離れることはなかった。

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