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始まりの朝 2
「今日も仕事?」
「いや」
そっか。毎日仕事がある訳じゃないんだ。あの船に乗ってた商人と、どんな仕事をしていたんだろう。他の人達と違ってリュカは荷物持ちって訳じゃなさそうだったけど。
「お前は、仕事を見つけたいんだよな?」
考えていたらリュカがこっちを見ていた。と言うか、僕の使った食器また洗われてる……。
「うん、そうだね。ここにいる間ずっとリュカに頼りきりって訳にはいかないし」
「そうか。けど、悪いがすぐには無理だ」
リュカは心底申し訳なさそうに言った。けど、そんなの僕にだって分かってる。痛いほどに。
「お前に紹介してやれるような仕事があったら教えてやるから」
「ありがとう。僕はそれで全然いいよ。けどリュカはいいの?」
「なにが?」
「だって僕が働かなきゃ、リュカの食い扶持削っちゃうだけでしょ?」
「んな事今更気にすんな。全部承知の上でお前を引き受けたんだから」
さらっと当たり前の様にリュカが男前な事を言ってのけるけど、そんな事普通の──これまで僕が知ってた人たちに出来る事かと問われると答えはノーだ。僕自身しかり。
「リュカのために僕に出来る事はあるかな?」
ありがとうの言葉は、また受け取って貰えない気がしたからぐっと飲み込んだ。リュカは腕を組んでうーん、と唸った。僕の手伝いは受け取って貰えるんだと思うと嬉しい。
「洗濯とかやってくれると助かる、かも」
「お安い御用だよ!」
結構悩んでいたから、難しいことを言われるかも、なんて思っていたけど、リュカの口から出てきたのはそんな簡単なお願いだった。
「あとは?」
「あと?」
「洗濯だけじゃあんまりでしょ?もっと他にも頼んで欲しいよ」
むむむ、とまた腕を組む。なんだかおかしい。自分よりも身体の大きな大人相手にも全く臆することなく立ち向かえるリュカが、僕にする頼み事でこんなに悩むなんて。
「考えとく」
結局答えは出なかったらしい。これ以上リュカを悩ませるのは酷だ。あとは僕自身が自分で考えてリュカの役に立てるように動けばいいか。
「それでさ、リュカ。洗濯ってどうやればいいの?」
「は?」
呆気に取られたリュカの口がぽかんと開く。だって僕、自分で洗濯をしたことがないし……。
「そうだったな、お前貴族だもんな」
リュカの声には何の他意もなかったのに、僕は勝手に責められている様な気になって俯いた。ここでは、自分の事は自分でやるのが当たり前なのだ。自分の事を身の回りの人がしてくれるのが当たり前だった僕とは違って。
「一緒にやろうぜ」
何もできない自分を恥じつつあった僕を見下すこともせずに、リュカはあっけらかんとそう言った。
「お、教えてくれるだけでいいよ!僕の仕事にならないから」
「今日は俺も休みなんだ。やりながら覚えろよ」
こっちだ、と進むリュカの背中を追いかける。
「ありがとう!」
咄嗟に叫んだ言葉にリュカは肩を竦めた。こんなこと何でもない。僕がありがとうを言うたびに、リュカは言外にそう言うんだ。
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