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初めての仕事 3

「おい大丈夫か?」 「う、うん……なんとか……」  それにしても2つなんて少な過ぎる。そう思った前言は撤回したい。薪の束ってこんなに重かったんだ。両手に薪を提げながら帰路を歩く僕は、薪の重さに身体を持っていかれてあっちにふらふらこっちにふらふらしている。対して薪に加えて僕の分の斧まで持ってくれているにも関わらず、リュカは涼しい顔をしている。あんなにほっそりした腕のどこにそんな力を秘めているのだろうか。  「俺も流石に両手埋まってるし手伝えねえから……頑張れ」 「うん、がんばるよ」  スラムの街を通り抜ける時は緊張した。よたよたふらふらする僕の歩みはすこぶる遅くて、自分で言うのも何だけど非力丸出しだ。薪を盗られるんじゃないかと肝を冷やしていたのだ。リュカはそんな僕の歩みに合わせて隣を歩いてくれたし、周囲に隙のない睨みを効かせて僕と薪を守ってくれた。考えてみれば重い薪の束は、盗むにはハイリスクだ。これを抱えたままじゃ大した速さで走れない。つまり、逃げ切れない可能性大だ。僕一人ならまだしも、手練れな雰囲気漂うリュカが一緒なら、誰もそんなリスクを犯そうとはしない。それに気づいてからは幾分気が緩んだ。 「すっごく疲れたけど、なんか楽しかったな」 「そうか?相当きつそうだったけどな」  街中ではリュカは不用意に余所見……つまり、僕に視線を寄こしたりしない。けど、そういうものだってもう知ってるから今は全然気にならない。会話に応じて貰えてるだけで嬉しい。  「僕あんまり力仕事とか経験なかったから。けど、身体を動かすのって気持ちいいね。なんか今すっごく気分がいいよ」 「そうだな。俺も汗を流す仕事は嫌いじゃない」  そう答えたリュカの端正な横顔を盗み見る。ああ。頬が緩むを止められない。リュカが僕に同意してくれた。今僕とリュカは同じ気持ちなんだ。それだけで嬉しくて幸せな気分になる。リュカの言う通り沢山汗をかいた。そのお陰でリュカから香っていた甘い香水の匂いはすっかり消えていて、その事も僕を上機嫌にさせた。 「この薪、僕のとリュカので合わせて何日分になるかな……?」 「この頃寒くなってきたからな。1週間くらいしか持たねえかも」 「そっかあ。大事につかわないとね」  毎日お風呂を沸かすなんてとんでもない。本当に必要な事に使うべきだ。そうして1日でも長くこの薪で生活をして、お金の節約に繋げないと。 「けどお前の分はお前のだ。金じゃねえけど、お前の初めての給料だろ。売って金作ってもいいし、好きに使えよ」  リュカは何の気負いも押し付けがましさもなくサラリとそう言った。きっとリュカは本気で、なんの疑問もなくそう思ってる。けど、僕は違う。あんまりじゃないか、そんなの。そう言いたい。リュカはリュカが働いて得たもの全部僕に分け与えてくれていると言うのに、どうして僕にはそうさせてくれないの。そうやって詰め寄る事をしなかったのは、リュカが僕に意地悪で言ってる訳じゃないから。冷たく突き放そうとしてるんでもなく、ただただ優しさと思い遣りでそう言っている事が分かるからだ。 「うん、ありがとうね」  だから僕は素直にリュカの気持ちを受け取った。僕の好きに使っていいってことは、リュカとの生活の為に使ったっていいってことだ。

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